主な診療内容

総合内科
消化器疾患全般にわたり以下のような診断および治療を行っています。
  • 上部(食道・胃・十二指腸)内視鏡
  • 下部(大腸)内視鏡
  • 早期癌または腺腫に対するESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)・EMR(内視鏡的粘膜切除・ポリープ切除)
  • 小腸内視鏡(ダブルバルーン内視鏡)カプセル内視鏡
  • 超音波内視鏡(+それを用いた穿刺細胞診・ドレナージ術)
  • ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)(+それを用いた乳頭切開・胆管結石除去・ドレナージ・金属ステント留置術)
  • 食道静脈瘤に対する内視鏡的硬化療法(EIS(L))および結紮術(EVL)
  • 経費経肝胆道ドレナージPTCD・経皮経肝胆嚢ドレナージ
  • 胃瘻造設(PEG)
  • 消化器癌 化学療法
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察表

医療関係者の方へ

消化器内科では上部下部消化管,胆膵疾患全般について対応しています。 早期癌に対する粘膜下層剥離術(ESD),食道静脈瘤硬化療法,膵胆管疾患に対するERCPおよび関連治療手技,小腸疾患に対するバルーン内視鏡,カプセル内視鏡など ,適応となる患者さんがおられましたらご紹介下さい。 また,スクリーニング検査としての上下部内視鏡検査も地域医療連携を通じてお気軽にご依頼下さい。

内視鏡検査件数の推移

研修医募集

消化器内科では後期研修医および常勤医師を募集しています。 見学、研修などのご要望にも積極的に応じておりますので、ご遠慮なくご連絡ください。

担当:小橋春彦
email : kobashi0584@gmail.com
TEL:086-222-8811
FAX:086-222-8841

消化器疾患と最新の検査・治療(201211月)

–目次–
Ⅰ.超音波内視鏡(EUS)と穿刺吸引生検法(EUS-FNA)・・・ 横山 元浩
Ⅱ.早期消化管癌に対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD) ・・・ 井上 雅文
Ⅲ.膵・胆道疾患に対する内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)と関連手技・・・前島 玲二郎
Ⅳ.ピロリ菌感染症と胃潰瘍・胃癌・・・ 浅野 基
Ⅴ. 消化管出血と緊急内視鏡止血術・・・ 橋本 健二


Ⅰ.超音波内視鏡(EUS)と穿刺吸引生検法(EUS-FNA)・・・横山 元浩

1.超音波内視鏡とは?

超音波内視鏡((Endoscopic ultrasonography,EUS)は内視鏡を用いて消化管(食道,胃,十二指腸など)を通して超音波検査を行う方法です。 体の深部にある病変に至近距離から高周波(高解像度)の超音波を当てることができるため,お腹の上から行う通常の超音波(体外式超音波)よりも精細な画像が得られます 。消化管の壁内部や消化管周囲の臓器(膵臓など)の観察に有用です。 超音波内視鏡は,内視鏡先端部と超音波探触子が一体化した専用機(図Ⅰ-1)と,内視鏡の鉗子口から細径の超音波プローブ(IDUS) を挿入するものの2種類があります。専用機には超音波の発生形式によってラジアル式(短軸方向に周囲360度を観察する)とコンベックス式(長軸方向斜め前方を扇形に観察 する)があります(図Ⅰ-2)。それぞれ用途によって適した機種を選択します。

図Ⅰ-1

図Ⅰ-1

図Ⅰ-2

図Ⅰ-2

2.方法

通常の上部消化管内視鏡(胃カメラ)と同様の方法ですが,検査時間が20分前後とやや長くかかるため,鎮静剤を投与しながら行います。当院では安全性を考えてできるだけ 検査後1泊入院していただくようにお勧めしています。

3.適応

消化管領域では,消化管(食道,胃,十二指腸,大腸など)に発生した癌の深達度(表面からどこまで深く進んでいるか)やリンパ節転移の診断,治療効果判定,粘膜下腫瘍の 診断などに用いられます。胆膵(胆嚢,胆管,膵臓)領域では胆道系腫瘍(胆嚢癌・胆管癌)の深達度・周囲臓器の浸潤・リンパ節転移など,胆道系良性疾患(胆石症・胆嚢 ポリープ・胆嚢炎・胆管炎・総胆管結石・アデノミオマトーシス,膵胆管合流異常)の診断,膵癌の深達度診断,神経内分泌腫瘍,膵嚢胞疾患(膵管内乳頭粘液性腫瘍IPMNなど), 慢性膵炎・膵管狭窄の診断などに用いられます。

4.超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)とは?

図Ⅰ-3

EUS-FNAは,超音波内視鏡を用いて消化管に近接した病変を画像で確認し,それに向かって内視鏡先端から特殊な針を進めて穿刺し組織を採取する方法です。膵臓腫瘍 などの診断に対して最近ではCT,MRIなど様々な画像診断が進歩してきましたが,いまだに癌か良性腫瘍かが鑑別困難な場合があります。このように従来は困難であった 病変に対して,EUS-FNAは直接組織を採取して病理診断が得られる方法として大変有用です。おもな適応は膵臓やその周囲の腫瘤性病変(膵癌を含む),消化管粘膜下 腫瘍,消化管周囲リンパ節腫大,自己免疫性膵炎の確定診断などです。なお欧米ではIPMNに対してEUS-FNAが行われていますが日本では一般には行われていません 。また,この方法を応用し,膵仮性嚢胞や膿瘍のドレナージ(貯留している液や膿を排出する方法)などの治療も行われるようになってきました。

EUS-FNA

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Ⅱ.早期消化管癌に対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)・・・井上 雅文

1.はじめに

早期胃癌など早期消化管癌に対する内視鏡治療は手術(外科的切除術)に比べて患者さんに与える負担が軽く,わが国の内視鏡の進歩とともに発達してきました。1984年に始 まった内視鏡的粘膜切除術(EMR)により,分化型の早期胃癌で2㎝以内の隆起性病変や潰瘍を伴わない陥凹性病変であれば内視鏡により切除できるようになり,早期胃癌の患 者さんに対して非常に大きい利益をもたらしました(図Ⅱ-1)。ただEMRの問題点として,切除できる大きさが限られ分割切除になりやすく ,分割切除時に局所再発率が高い(約20%),また瘢痕症例は施行困難など治療法として限界がありました。これに対して2000年頃から開発され施行されるようになったESD( endoscopic submucosal dissection内視鏡的粘膜下層剥離術)はEMRの欠点を補い,従来のEMR困難病変でも一括切除が確実にできるようになりました。2006年には健康保険に も収載され,現在では早期胃癌に対する標準的な治療法となっています。さらに治療道具や技術の進歩により,早期食道癌,早期大腸癌などにも適応が拡大しています。また ,内視鏡診断技術に関しても光学内視鏡(ファイバースコープ)から電子内視鏡へ,さらに拡大内視鏡,光デジタル処理(NBI観察法),色素散布法など早期癌診断技術も 急速に進歩しつつあると言えます。 当科でもこの内視鏡診断・治療を積極的に実施しています。早期胃癌を中心にESDについてご説明します。

図Ⅱ-1

図Ⅱ-1

2.ESDの適応

図Ⅱ-2 ESDで治療できるかどうかを決定する際に最も重要な点は,リンパ節転移がなく,一括切除ができ,局所切除のみで確実に根治できるかどうかです。EMRの適応基準である2㎝ま での分化型癌がESDにおいても絶対適応ですが,多くの研究から脈管侵襲のない粘膜内癌で,①分化型で潰瘍がなければ大きさや形態を問わず,②分化型で潰瘍所見があれば 3cm以下の病変,③分化型でわずかな粘膜下浸潤(500μ未満)があっても3cm以下の病変,④未分化型であっても2cm以下,の4つの条件のいずれかであればリンパ節転移の危 険性は非常に低いことがわかり,ESDによる局所切除により根治が期待できます。これらの条件はESD拡大適応基準としています。

3.ESD手技の実際

図Ⅱ-3 病変部位をよく観察し,切除すべき病変(早期癌)の範囲を見極めて,取り残しがないようにひと回り広く切除するように切除範囲を決めます。1.確実性を考えて,病変の 5mm外側に処置具で目印をつけます(マーキング)。2.内視鏡の先端から注射針を出し,粘膜下層に局注液を注入し,病変を十分に隆起させます。3.マーキングのさらに外 側の粘膜を全周切開します。 4.切開した病変全体の下側をはぎ取るようにしながら切っていきます。5.切除が完了後,出血がないことを十分に確認した後,病変を回収し て治療終了となります。 6.切除した組織を顕微鏡で詳細に確認し,切除標本の端に癌が残っていないか,脈管内に癌細胞は入り込んでいないかなどを確認し,癌がのこらず 完全に切除され 治癒切除が得られたことを確認します。 当院で実施した症例の中から1例を示します。胃前庭部に発生した陥凹型の早期胃癌です(図Ⅱ-4A)。ESDにより切除,回収し,切除前と 同じような形で固定し,顕微鏡で確認します(図Ⅱ-4B)。完全に治癒切除が得られれば,その後は定期的に内視鏡をおこない経過観察し ます。もし切除が不十分で癌細胞が残っている(非治癒切除)疑いがあれば,追加治療を検討します。

図Ⅱ-4

図Ⅱ-4

4.外科的切除比べた時のESDの長所と短所

ESDの長所として,体の負担が少ない,入院期間が短い,術後の後遺症が少なく胃が残せるため術前と同様の食生活を過ごせるなどの点が挙げられます。一方,ESDの短所とし ては施行時の状況や,病理組織結果により追加の外科手術が必要になることもあることです。

5.早期胃癌等に対する当院の治療実績(図Ⅱ-5)

図2-5当院における胃ESD症例数の推移

2006年3月から2012年6月までの当院での胃腫瘍に対するESD件数を示します。今後さらに増加することが見込まれます。2012年4月には早期大腸癌に対してもESDが保険適応とし て認められました。技術面で難しい点はありますが,今後大腸癌や食道癌に対するESD治療例も増えていくと見込んでいます。

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Ⅲ.膵・胆道疾患に対する内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)と関連手技・・・前島 玲二郎

1.ERCPとは?

ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影Endoscopic Retrograde CholangioPancreatoGraphy)とは,側視鏡(実は後方斜視鏡)を用いて、十二指腸乳頭から総胆管もしくは主 膵管へカニューラ(細いチューブ)を挿入して胆管や膵管を造影する膵・胆道(胆管,胆嚢)疾患の精密診断法です。胆管や膵管のわずかな狭窄,閉塞などを検出することが でき,小さい膵癌や胆管癌などの診断が可能です。近年CT,MRIなどの検査法が進歩してきたため,診断としてのERCPが行われる件数は以前よりも減ってきました。 しかし,ERCPの造影に引き続いて総胆管結石を除去したり閉塞部に管を通して黄疸や胆管炎を治療するドレナージなど治療へ応用する件数は増加しており,ERCPはま すます重要な手技となってきました。

2.方法

上部消化管,すなわち食道,胃,十二指腸と胆道(胆管・胆嚢),膵は図Ⅲ-1のような構造になっており,胆管と膵管は最後に合流してか ら十二指腸下降脚にある十二指腸乳頭に開口しています。 胃カメラと同様に咽頭麻酔をした後,内視鏡を口から挿入し,胃を通過し十二指腸へ進めます。胆管と膵管の出口である十二指腸乳頭を確認し,カニューラを乳頭にから胆管 または膵管へ挿入します。造影剤を注入してX線で観察し撮影します(図Ⅲ-2)。また消化管術後再建後でも,バルーン小腸内視鏡を用い てERCPができるようになりました。

図Ⅲ-1

図Ⅲ-1

図Ⅲ-2

図Ⅲ-2

3.適応

ERCPの適応となる主な疾患として,胆道疾患としては総胆管結石,総胆管癌,肝門部胆管癌,十二指腸乳頭部癌,原発性硬化性胆管炎などがあります。また膵疾患として は,膵癌,嚢胞性膵疾患(膵仮性嚢胞,膵管内乳頭粘液性腫瘍IPMN,粘液嚢胞腫瘍MCNなど),膵石などが挙げられます(図Ⅲ-3)

図Ⅲ-3

図Ⅲ-3

4.ERCPを応用した診断

ERCPを応用した診断法として,胆汁・膵液を吸引あるいは細いブラシでこすって採取し,得られた細胞を顕微鏡で調べる方法(細胞診),胆管・膵管内から鉗子を出して 組織を採取(生検),胆管・膵管内に細い超音波装置を進める管腔内超音波(IDUS)などがあります。

5.ERCPを用いた治療法

次のようなさまざまな方法があります。 ①内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST): 総胆管結石,肝内結石,胆石膵炎,良悪性胆管狭窄症,胆管ステント挿入などの際に十二指腸乳頭を切開する手技です。同じ目的で行う別の方法として,乳頭部をバルーンで 拡張する内視鏡的乳頭バルーン拡張術(EPBD)があります。 ②内視鏡的胆道ドレナージ術(ERBD,ENBD) : 悪性・良性胆道狭窄,胆管結石,急性胆管炎などに対して十二指腸乳頭からチューブを挿入し,うっ滞した胆汁や感染胆汁を排除する方法です。胆管内の閉塞・狭窄部位にガ イドワイヤーを通過させ,これにかぶせるようにしてチューブを通します。チューブの端を十二指腸に出す方法(ERBD,図Ⅲ-4,5) と,鼻から体外へ出す方法(経鼻胆道ドレナージENBD)があります。図Ⅲ-4は総胆管閉塞に対して1本,図Ⅲ-5は肝門部(左右の肝内 胆管の分岐部)の胆管閉塞に対して左右1本ずつ計2本のドレナージチューブを留置しています。

図Ⅲ-4

図Ⅲ-4

図Ⅲ-5

図Ⅲ-5 ③内視鏡的胆道結石砕石術・結石除去術: 総胆管・肝内胆管の結石を砕いたり取り除く手技です。乳頭切開術(EST)の後に行います。機械的砕石具(EML)で結石を把持し,絞って破砕します。(図Ⅲ-6)破砕片や小さい石は結石除去用バスケット鉗子やバルーンカテーテルで胆管外へ引っ張り出します。

図Ⅲ-6

図Ⅲ-6 ④内視鏡的胆管ステント留置術 EBS(金属,チューブ) 胆管が閉塞・狭窄し胆汁の流出が不良となった場合に胆汁の流出路を作る方法です。胆管内の閉塞・狭窄部位にガイドワイヤーを通過させ,これにかぶせるようにして胆汁を 流すためのパイプ(「ステント」といいます)を入れます。ステントには金属製の網状のもの(金属ステントEMS 図Ⅲ-7 )とプラスチッ ク製のもの(プレスチックステント:PS)があり,状況によって選択します。

図Ⅲ-7

図Ⅲ-7

6.終わりに

ERCPは膵・胆道系疾患の診断と治療に欠かすことができない方法です。総胆管結石や急性胆管炎の場合には緊急に行うこともしばしばあります。一方,ERCPに伴って 膵炎などの偶発症を合併することがあるため,実施するには入院していただくことが必要です。今後さらに進歩し,ますます重要となってくると思われます。

胆膵検査(ERCP+EUS)

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Ⅳ.ピロリ菌感染症と胃潰瘍,胃癌 ・・・ 浅野 基

1.ピロリ菌とは

ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)とは細菌の1種で,強い酸性環境である胃粘膜(特に粘液層)に生息しています。わが国のピロリ菌感染者は人口の約半分と推定されてい ます。ピロリ菌感染は慢性萎縮性胃炎,胃潰瘍,十二指腸潰瘍,胃癌,胃MALTリンパ腫などの発生に関与すると考えられています。 ①ピロリ菌と胃十二指腸潰瘍 胃十二指腸潰瘍の患者さんの多くがピロリ菌を保有しています。このような方にピロリ菌の除菌療法を行うことにより,潰瘍の再発率が低下します。現在,胃十二指腸潰瘍に 対するピロリ菌除菌療法は保険診療で認められています。 ②ピロリ菌と胃癌 ピロリ菌が胃粘膜に長期にわたって感染することにより慢性萎縮性胃炎となります。胃癌の多くは慢性萎縮性胃炎を背景に発生することがわかっており,ピロリ菌は胃癌の危 険因子として挙げられています。早期胃癌の内視鏡的治療後にピロリ菌を除菌することにより2次癌の発生が予防できることがわかり,胃癌2次予防目的のピロリ菌除菌療法は 保険適応となっています。一方,ピロリ菌を保有している人に除菌療法を行うことで将来的な胃癌の発生を予防できるかどうかはまだ確定されておらず,1次予防目的のピロ リ菌除菌は保険では認められていません。萎縮性胃炎があまり進んでいない時期に除菌すれば発癌を予防できるのではないかとの意見もあります。今後さらに検討されると考 えられます。 ③胃MALTリンパ腫 胃MALTリンパ腫は悪性リンパ腫の一種で比較的まれな疾患ですが,その多くはピロリ菌陽性の慢性胃炎を背景として発生します。60-90%の方はピロリ菌を除菌することに より寛解が得られるため,胃MALTリンパ腫治療の第一選択としてピロリ菌除菌療法は保険で認められています。

2.ピロリ菌の検査法

次のような方法でピロリ菌の有無を調べることができます。 ①尿素呼気試験:13C標識尿素を服用した後に息を吐き,呼気中の13CO2を測定します ②胃粘膜の顕微鏡検査,培養,迅速ウレアーゼテスト:内視鏡により胃粘膜を採取して検査します ③血中抗体試験:血液検査によりピロリ菌に対する抗体の有無を検査します

3.除菌の方法

除菌療法は内服抗菌薬2種類と胃酸分泌抑制剤(PPI)1種類の3剤を1週間服用します(1次除菌)。1次除菌は高い確率で成功しますが,近年では耐性菌の増加により除菌不 成功例も増えつつあります。1次除菌が不成功であった場合は抗菌薬の種類を変更する2次除菌療法もあります。



Ⅴ.消化管出血と緊急内視鏡止血術・・ 橋本 健二

1.消化管出血とは?

消化管からの出血には吐血,下血,血便があります。 ①吐血:上部消化管(食道,胃,十二指腸)から出血した場合。鮮血またはコーヒー残渣様の血液を嘔吐します。多くの疾患が吐血の原因となりますが,当院のまとめでは胃 潰瘍(38%),食道・胃静脈瘤(15%)・十二指腸潰瘍(12%)が3大原因でした(図Ⅴ-1)。また,出血性胃潰瘍の方の3割が抗血 小板薬,抗血液凝固剤,痛み止めの薬(NSAID)を服用しておられ,特に注意が必要と考えられました。 ②下血:黒色の便(タール便ともいいます)のことを言います。上部消化管(食道,胃,十二指腸)から出血が疑われますが,小腸や大腸からの出血の場合もあります。 ③血便:便に赤い血が付着したり便全体が赤褐色を呈する場合は下部消化管すなわち大腸(結腸,直腸)や肛門(痔など)からの出血が疑われます。ただし上部消化管出血で も急速に多量の出血があった場合には血便となることがあります。 急速に多量の消化管出血が起こった場合は血圧低下(ショック,循環不全)を起こし生命の危険に至る場合があります。輸液(点滴)や輸血などにより全身管理を進める同時 に出血の原因を推定し,全身状態(血圧や呼吸)が落ち着いたら緊急内視鏡による診断と止血処置を行います。

図Ⅴ-1

図Ⅴ-1

2.緊急内視鏡と内視鏡的止血術

血圧,脈拍,呼吸状態に注意しながら上部消化管内視鏡(いわゆる胃カメラ)を行います。施行医と助手,看護師の協力が重要です。内視鏡を挿入し出血の原因を探し,出血 点をピンポイントで特定します。 消化性潰瘍(胃潰瘍,十二指腸潰瘍)からの出血の状態はⅠ.活動性出血 typeⅠa動脈性(噴出性)(図Ⅴ-2A),1b静脈性(図Ⅴ-2B),Ⅱ.出血の痕跡がある状態typeⅡa露出血管あり Ⅱb凝血付着あり Ⅲ出血なしtypeⅢに分類されます(Forrest分類)。内視鏡によ る止血には①薬剤散布,②薬剤局注止血,③機械的止血法(クリップ法)(図Ⅴ-3),④熱凝固法(ヒータープローブ,APC(アルゴン プラズマ凝固)止血鉗子)などさまざまな方法があります。出血の部位や状態に応じて最も適した方法を用います。 食道胃静脈瘤とは,肝硬変などがある方で肝臓内へ流入する血液(門脈)の流れが悪くなり(門脈圧亢進症と呼ばれます),肝臓へ流れるべき血液が胃や食道などへ向かい,食道 や胃の粘膜直下の血管が著明に太くなったものです。食道・胃静脈瘤が破れて出血すると,多量の血液を吐血してしまいます。食道静脈瘤の破裂出血に対して 内視鏡を使って O―リングで出血している場所をしばって止血する内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)や,内視鏡の先端から注射針を出し静脈瘤を刺して硬化剤を注入する内視鏡的食道静脈瘤 硬化療法(EIS),またはその両方を組み合わせる方法硬化結紮術(EISL)を行います。 なお,現在消化管出血の大半は内視鏡を用いて止血していますが,一部には内視鏡ができない状態や内視鏡止血困難な場合もあり,そのような場合にはIVR(カテーテルを用い た血管塞栓術)や外科的治療をを行うこともあります。

図Ⅴ-2

図Ⅴ-2

図Ⅴ-3

図Ⅴ-3

3.当院における出血性胃潰瘍に対する止血術のまとめ(図Ⅴ-4)

図Ⅴ-3 当院で上部消化管出血に対する緊急内視鏡をまとめたところ,症例は男性が女性の2倍以上を占め,平均年齢は67歳で、50歳以上の方が80%以上を占めていました。原因として 最も多かった出血性胃潰瘍のうち,出血部位は胃角部小弯(38%),胃体部後壁(23%)などが多く見られました。出血性消化性潰瘍による止血法として,当科では主に クリップ止血,エタノール局注,HSE局注を多く持ちいており,特にクリップは出血性胃潰瘍に対する緊急内視鏡施行例の約4割で用いていました。

4.今後の方向

消化管出血に対して緊急内視鏡および止血術の進歩により確実な治療ができるようになってきました。その一方,高齢者人口が増加し脳血管障害や心臓疾患に対して抗血小板 薬や抗血液凝固剤を服用している方が増え,止血困難な症例も増えてきています。このような状況に臨んで,私たちは内視鏡技術の向上に努めています。