診療内容

呼吸器外科

当科の呼吸器外科手術症例数は年間150例を越え(そのうち肺がんは100例以上),日本胸部外科学会認定医・指導医,日本呼吸器外科学会専門医の修練施設として,県下でも有数の症例数を誇っています。約半数が肺がんの根治手術で、その他に気胸、縦隔腫瘍、良性肺疾患、漏斗胸、多汗症などがあります。そのほとんどに侵襲の少ない胸腔手術を導入しています。

医師のご紹介  外来診察表

胸腔鏡下肺葉・区域切除1000例達成‼

 1995年(平成7年)6月30日に岡山赤十字病院で肺アスペルギローマに対し第1例目の胸腔鏡補助下左下葉切除を施行して以来,2014年(平成26年)3月14日1000例目の胸腔鏡下肺葉・区域切除(解剖学的肺切除)を達成することができました。当初は胸腔鏡補助下(assist VATS)で591例に施行していましたが,2009年から完全胸腔鏡下(complete VATS)に移行し,409例を完全鏡視下で行いました。1000例中877例が肺癌に対する根治手術,58例が転移性肺腫瘍,残りが良性肺疾患でした。日本国内で胸腔鏡下肺葉・区域切除(解剖学的肺切除)の経験が1000例を超えている呼吸器外科医は私が知る限りでは数名で,都心と比較して症例数の少ない地方の一市中病院としては快挙だと思います。500例達成は2007年(平成19)年10月24日で12年4ヵ月を要したのに対し,後半の500例は6年5ヵ月でした。グラフの如く症例の増加は加速度を増しており,このペースで行けば5年後には1500例を達成できると思います。 

VATS lobectomy/segmentectomy累積症例数

胸腔鏡下肺葉・区域切除1000例達成‼1  胸腔鏡下肺葉・区域切除1000例達成‼2


肺癌に対する外科治療

1. 肺癌の治療戦略

 ひとくちに肺癌といっても様々なタイプの癌があります。最も多いのは腺癌で,次に多いのが扁平上皮癌です。その他にも小細胞癌,大細胞癌,腺扁平上皮癌,腺様嚢胞癌,カルチノイド,粘表皮癌,癌肉腫などがあります。そのうち小細胞癌だけは別格に扱われますが,その他の組織型をまとめて非小細胞肺癌と呼んでいます。小細胞癌は生物学的な悪性度が高く,発見時には進行癌であることが多いため,よほどの早期で発見されない限り手術の対象になることはありません。その代わり,小細胞癌は抗癌剤と放射線治療が非常によく効きますので,これらを併用するのが一般的です。その反対に悪性度は小細胞肺癌ほどではありませんが,抗癌剤や放射線治療が効きにくいのが非小細胞肺癌です。最近は良い抗癌剤が開発されてきていますし,放射線治療の他に免疫療法,遺伝子治療もありますが,現在でも非小細胞肺癌の治療の第一選択は手術で癌病巣を完全に切除すること(根治手術といいます)です。非小細胞肺癌に対する抗癌剤,放射線,免疫,遺伝子治療は手術をしても治しきれない段階まで進行した場合に行う補助的な治療法と一般的に考えられています。
御承知のように癌は進行すると転移してきます。転移の仕方には癌細胞が血流に乗って全身のどこにでも転移してくる血行性転移(遠隔転移ともいいます)と,リンパ液の流れに乗ってリンパ節に転移するリンパ行性転移(リンパ節転移)があります。どんな癌でもその癌の進行度(医学用語では病期といいます)を目安にして治療方針を決定します。レントゲンやCT,PETなどの画像を参考にして推測された病期を特に『臨床病期』と呼び,これによって治療方針を決定しますが,これはあくまでも画像から導かれたもので100%正確なものではありません。癌細胞の一つ一つは顕微鏡でしか見えないほど小さなものなので,小さな転移があってもレントゲンやCT,PETには現れないことがあるからです。
肺癌の病期はI,II,III,IVの4つの時期に分かれます。他にもいろんな因子が絡んできますが,大まかに言えばI期は血行性,リンパ行性いずれの転移もない時期,IV期はすでに血行性転移を来している末期の時期です。II,III期とは血行性転移はないもののリンパ節転移がある時期で,小範囲のリンパ節転移をII期,広範囲なリンパ節転移や隣接臓器浸潤をIII期とします。手術で完全に癌が治る可能性があるのはI,II期とIII期の一部です。

2. 手術適応

 臨床病期I,II期が手術療法の対象となります。臨床病期III期に対しては症例によって様々な選択肢があり,最初から手術を選択する場合,まず化学療法(場合によっては放射線治療を併用)を行って病巣を小さくしてから手術する場合,手術をして術後に化学療法を追加する場合(術後補助化学療法と言います)の3通りがあります。臨床病期IV期(遠隔転移を伴う)は基本的には手術の対象とはなりませんが,単発性の遠隔転移の場合(例えば単発性脳転移,単発性副腎転移)は,転移巣を切除することを条件に根治手術を行うことがあります。
手術をして摘出した臓器を顕微鏡で調べ,病理組織学的に判定された最終的な病期を『病理病期』と言います。『臨床病期』と『病理病期』は食い違うことがありますが,『病理病期』が最終的な癌の進行度と判断されます。

3.手術術式

レントゲン写真で見ると肺は右左一つずつのように見えますが,
実際は右が上葉,中葉,下葉,左が上葉,下葉の
合計5つの肺葉に分かれています。(右図)

手術術式

肺癌に対する標準的な根治手術は癌が発生した肺葉ごと切除し,その周囲のリンパ節を郭清するのが一般的です。しかし,最近は画像診断の進歩により,ごく早期の肺癌が発見されるようになり,根治手術の方法も症例により選択するようになってきています。場合によっては癌の病巣のみを切除(部分切除)したり,区域切除という肺葉よりも小さな範囲の切除で済む場合もあります。
肺癌の根治手術は,以前からほとんどが標準開胸といって,側胸部に30-40cmの大きな皮膚切開をおいて肋骨の隙間を大きく開いて,外科医の手を直接胸の中に入れて手術を行う方法が採られていました。しかし,この開胸法は手術創が大きいだけでなく,術後の痛みが強いのが欠点でした。しかし1990年代前半から,医療光学器械の進歩によって胸腔鏡(内視鏡の一種)を用いて小さな手術創で肋骨を大きく開くことなく肺癌の根治手術を行う胸腔鏡下肺葉・区域切除術(VATSといいます)が行われるようになり,当科では1995年7月からこの手術を積極的に取り入れ,現在までに1000例を超える症例に行っています(2015年10月1日現在)。
実は,胸腔鏡下肺葉切除(VATS)には2種類の方法があり,胸腔鏡補助下手術(assist-VATSあるいはhybrid-VATS)と完全胸腔鏡下手術(complete-VATSあるいはpure-VATS)に分かれます。胸腔鏡補助下手術は,胸腔鏡で光を当てながら小開胸創から直接胸腔内を覗いて(直視)手術をする方法です。広い視野が必要なため,当然開胸の傷が6~8cm,施設によっては10cmと大きくなります。一方,完全胸腔鏡下手術は胸腔内を覗くことなく,モニター画面のみを見て手術する方法です。切除した肺を取り出すのに必要な最低限の傷,3~4cmですみます。しかし,この二つの手術の決定的な違いは傷の大きさではなく,鏡視下手術を行う外科医の技術力です。肺を切除するには,肺動脈,肺静脈という心臓から直接肺に繋がっている血管を剥離,切離しなければなりません。この過程でこれらの血管を少しでも損傷すると,心臓から直接大出血し,稀ではありますが場合によっては術中出血死することもあります。この操作を完全鏡視下にできるかどうかが,内視鏡外科医の技術力なのです。新聞,雑誌,テレビなどに胸腔鏡手術のエキスパートといって登場する呼吸器外科医で,下を向いて術野を見ながら手術をしていたら胸腔鏡補助下の手術と考えて間違いありません。完全胸腔鏡下手術を行っている呼吸器外科医は必ず前方のテレビモニターを見ながら手術をしていますので,違いを見分けるのは簡単です。

標準開胸及び腹腔鏡補助下手術

標準開胸及び腹腔鏡補助下手術

完全腹腔鏡下手術

完全腹腔鏡下手術

 前述したとおり,当院では1995年から胸腔鏡下手術を開始しましたが,2008年12月までは胸腔鏡補助下に行ってきました。それまでは6cmの小開胸創と2個のポート孔(各1cm)で,血管の処理は小開胸からの直視下操作,縦隔リンパ節の郭清は完全胸腔鏡下と,両者を併用して実績を築いてきました。その実績を元に2009年1月から完全胸腔鏡下手術に移行し,現在では3cmの小開胸創と2個のポート孔で行っています。2011年10月までに約170例施行し,手術関連死亡はなく,良好な成績を上げています。
以下に当科で行った胸腔鏡下肺葉・区域切除術(VATS)の成績をお示しします。(2013年に日本内視鏡外科学会総会で発表したデータです。)

肺癌に対する胸腔鏡下肺葉・区域切除術 Video-assisted Thoracoscopic Surgery (VATS)

1. 当科で行っている胸腔鏡下肺葉・区域切除術(VATS)の実際

適応(対象となる患者さん)

以前はリンパ節転移のない,I期を適応としていましたが,現在は完全胸腔鏡下(complete-VATS)に切除可能であればリンパ節に転移があっても手術適応としています。
他臓器への浸潤,気管支形成,リンパ節転移が顕著,完全鏡視下に切除が難しい症例は10〜15cmの開胸創で胸腔鏡補助下(assist-VATS)に行います。

手術創

下の図は標準開胸,胸腔鏡補助下,完全胸腔鏡下の各手術の手術創の比較です。完全胸腔鏡下の傷がいかに小さいかが分かると思います。

手術創

当院における各術式の定義

開胸(open thoracotomy: OT)

後側方切開または10cm以上の切開創で開胸器を掛けて行う直視下手術

胸腔鏡補助下手術(assist VATS: aVATS)

6~8cmのaccess thoracotomyと2 portで,肺門の血管処理は直視,縦隔郭清はモニター視で行う手術

完全鏡視下手術(complete VATS: cVATS)

3~4cmのaccess thoracotomyと2 portで,全ての操作をモニター視で行う手術

完全胸腔鏡下肺葉・区域切除(complete-VATSあるいはpure-VATS)

 当院の完全胸腔鏡下手術は,3cmの皮膚切開による小開胸と1cmの皮膚切開2カ所(ポート孔)の3カ所の傷で行っています。開胸創は小さいため,手術器具を入れるとここから胸腔内を直接覗くことはできません。切除された肺は丈夫なビニール袋に収納して3cmの小開胸創から摘出します。腫瘍が大きくどうしても出てこないときは切開創を0.5~1cm程度広げることがあります。

完全胸腔鏡下肺葉・区域切除(complete-VATSあるいはpure-VATS)

当科における肺がん手術に対するアプローチの変遷

当科における肺がん手術に対するアプローチの変遷

1995年当時は肺がん手術の約70%を開胸手術で行い,胸腔鏡補助下手術は限られた症例に行っていたが,徐々に胸腔鏡補助下手術の割合が増加。2009年に完全鏡視下手術を開始した直後は難しい症例は胸腔鏡補助下手術で行っていたが,現在は拡大手術以外は全て完全胸腔鏡下に行っている。

手術術式

手術術式

葉切除の赤字は拡大切除,区域切除の赤字は非定型(複雑な)区域切除

大開胸(OTまたはST),胸腔鏡補助下(a-VATS),完全鏡視下(c-VATS)の比較

周術期のパラメータ

周術期のパラメータ

上記のデータは1葉切除のみの比較。手術時間はc-VATSがa-VATSより分,癌の手術として同じクオリティーの手術をすると手術時間はcVATSがどうしても長くなります。術中出血量,胸腔ドレーン留置期間は変わりません。術後入院期間は完全鏡視下が統計学的有意差を持って標準開胸,胸腔鏡補助下よりも短くなっていました。

術後疼痛

術後疼痛

呼吸機能の変化(1葉切除のみを比較したデータ)

呼吸機能の変化(1葉切除のみを比較したデータ)

手術侵襲の指標(CRPの推移)

大開胸(ST)とVATSの比較では術後2,3日目で有意にVATS方がCRPの上昇が少なく手術侵襲が軽いことがわかる。

手術侵襲の指標(CRPの推移)

術後合併症の比較

術後合併症の比較

aVATSに比してcVATS群に肺癆が多いのは区域切除が多いのが原因か?
肺癆を除くとaVATSとcVATSの術後合併症発生率は同等。
OTは肺癆以外の術後合併症の発生頻度が両群に比して高い。

以上をまとめると

  1. 胸腔鏡下肺葉・区域切除(VATS)は手術時間,術中出血量,術後入院期間,術後合併症発生率,術後疼痛において標準開胸よりも有意に優れていました。
  2. CRPの推移では術後2,3日目でVATSが有意に低値でしたが,4日目以降は差がありません。従って術後早期にのみ血液学的に低侵襲といえます。
  3. 呼吸機能では胸腔鏡下肺葉・区域切叙述(VATS)は標準開胸に比して有意に術後の拘束性肺障害を軽減していました。
  4. 以上の結果から胸腔鏡下肺葉・区域切除術は標準開胸に比較してあらゆる面で低侵襲すなわち『患者さんに優しい手術』といえます。

2. 胸腔鏡下肺葉・区域切除術(VATS)の危険性について

 肺癌の手術は肺動脈,肺静脈という心臓から直接肺に流入する血管を結紮・切離して,切除しようとする肺を心臓から分離しなければなりません。
この手技が非常に繊細で,標準開胸でもあっても危険を伴います。標準開胸では胸腔内に術者の手が入るので直接臓器に触れながら手術ができますが,  胸腔鏡下手術では開胸創は1.5 X 2.5cmほどの小さなものなので,術者の手で臓器に触ることはでず,長い手術道具を使って手術を行います。また,標準開胸では術者は両目で臓器を立体的(3次元の世界)に見て手術ができます が,胸腔鏡手術ではテレビ画面で平面(2次元の世界)でしか見ることができません。それが内視鏡手術が術者の熟練を要する所以なのです。このような理由から一般的に胸腔鏡手術は標準開胸より危険性が高い手術といえます。
しかし,当科では胸腔鏡下手術に熟達した呼吸器外科専門医が術者として行っておりますので,安心して手術を受けていただけると思います。

3. 胸腔鏡下手術から標準開胸への術式変更について

 高度の胸腔内癒着や不測の術中出血など,胸腔鏡下に手術が続行不可能になった場合は,患者さんの安全を第一に考えて標準開胸に変更させていただくことがあります。これまでに学会等で発表された他施設での標準開胸への変更率は約5~10%程度です。しかし,当科ではこれまで高度癒着,術中出血に対しても術式を変更することなく胸腔鏡下に対処できており,開胸手術 に変更した症例は678例中11例(1.6%)です。(1995年1月~2010年12月)

4.在院期間と死亡率について

在院日数は2010〜2014年の5年間で平均10.2日,中央値は8日でした。
2014年の単年では平均8.7日,中央値は6日でした。
術後30日以内の死亡(術死)は最近5年間で0%でした。

5. 肺がんの手術治癒率(5年生存率)

5. 肺がんの手術治癒率(5年生存率)

上の表は2001年に発表された日本全国3043例の肺癌症例の手術成績です。
5年生存率は 病理病期IA 83.3%,IB 66.4%,IIA 60.1%,IIB 47.2%,IIIA  32.8%,IIIB 30.4%,IV 23.2%

6. 当科における肺がん症例の生存率

胸腔鏡補助下手術(aVATS)の術後累積生存率

当科における肺がん症例の生存率

完全胸腔鏡下手術(cVATS)の術後累積生存率

当科における肺がん症例の生存率

病理病期IA期のアプローチ別累積生存率

当科における肺がん症例の生存率

病理病期IB期のアプローチ別累積生存率

当科における肺がん症例の生存率

当科における肺がん手術の累積生存率は胸腔鏡補助下,完全胸腔鏡下ともに全国レベルに劣らず,むしろ上回っています。これは当科の肺がん手術が根治手術として質の高いことを示しています。また,胸腔鏡下手術はリンパ節郭清の質が以前の開胸手術に比して劣るのではないかとの疑念がありましたが,当科の成績でも病理病期IA,IBにおいて以前の開胸手術と比較して生存率が劣ることはなく,統計学的有意差はないものの,むしろ良好であることが示されています。これらのデータを参考にして頂き,これから肺がんの根治手術を受けられる予定の患者さんは,体の侵襲が少なく根治性が損なわれない手術を受けて頂きたいと思います。
そのために当サイトがお役に立てれば幸いです。

2015年10月21日 文責 岡山赤十字病院呼吸器外科部長 森山重治

自然気胸

1. 自然気胸とは

「気胸」という病気は、聞きなれない病気かと思います。 何らかの原因で肺に穴があき、空気が漏れて、あたかもタイヤのチューブがしぼんでしまったような状態を言います。 簡単にいえば、肺のパンクと考えれば良いでしょう。 「気胸」には様々な原因があります。 例えば、交通事故で肋骨を骨折し、その骨片が肺に刺さったり刃物で胸を刺されて起こる気胸を外傷的気胸といいます。 その反対に、外的な誘引なく起こる気胸を自然気胸と言います。 自然気胸にも肺気腫、塵肺など肺に器質的な病気を持っている方が起こす続発性自然気胸と、体質的に肺の表面を覆っている膜が浮き上がって泡状の病変(ブラ、ブレブと呼びます)を持った方が起こす原発性自然気胸があります。

2. 原発性自然気胸の原因

自然気胸
肺の表面からブラ、ブレブと呼ばれる泡状ないしは風船状の病変があり(右図) これがパンクして空気が漏れて肺が縮むのが自然気胸です。 この病変は誰もが持っているものではなく、体質的にできやすい人(長身でやせ型の男性に多い)にできるもので、15歳頃からでき始めて25歳ごろまでにできあがると考えられています。 この病変は肺尖部(肺のてっぺんの部分)に好発しますが、その他の部分にもできることがあります。

3. 自然気胸の治療法は?

続発性自然気胸は原則的に手術の対象ではなく、癒着療法が 行なわれます。しかし空気漏れが長期になる場合は手術療法を 考慮しなければならない場合もあります。 原発性自然気胸では初発でも50~60%、2度目で70~80%、 3度目で90%以上再発すると言われています。

手術の適応は以下のように分かれます。

a).手術しなければならない場合(絶対適応)

  • (1)多量の胸腔内出血を伴う場合(血気胸)
  • (2)両側同時気胸
  • (3)脱気療法しても多量の空気漏れで肺の拡張が得られない場合

b)手術を考慮したほうがよい場合(相対適応)

  • (1)再発を繰り返す場合
  • (2)空気漏れが長引く場合(4日以上が目安)
  • (3)飛行機のパイロット、潜水夫など、気胸が致命的になりうる職業
  • (4)海外旅行を控えている人、妊娠・出産を控えた女性など

最近は胸腔鏡手術が盛んになり、以前の開胸手術と比べて 手術の傷も小さく、痛みも少ないことから、はじめて気胸を 起こした方でも患者さんの希望があれば手術を行なっています。 手術後の再発率は全国的に見ても10%程度です (当病院外科では25歳以上の方の術後再発率は2.6%です。)

5. 手術方法

自然気胸の手術は全身麻酔で行ないます。 手術は下図のように側胸部に3ヵ所1~2cmの皮膚切開で 行ないます。 その切開からポートと呼ばれている筒状のものを肋骨の隙間に 留置し、これから胸腔鏡を胸腔内に入れて中の様子をテレビ画面で見ながら、あとの2個のポートから手術用具を入れて手術します。

自然気胸

自然気胸
手術は気胸の原因となる病変(ブラ、ブレブ)の集族部位は切除し、 単発性のものは結繋または焼灼します。 当病院外科では、術後再発防止の目的で、予防的な癒着療法は 還俗的に行なっておりません。 癒着療法を行なうと、将来肺癌などの手術が必要になったとき、 根治手術が大変困難になったり、拘束性肺機能障害を来す恐れがあります。

6. 手術時間など

自然気胸
胸腔鏡の手術は手術側の肺を完全に空気が入らない状態にしないと 施行できません。 また胸部の手術は生命に直結した肺、心臓が関係した手術でもあり、 術中の異常を早期に発見するために各種のモニター類を装着する必要があります。 そのための麻酔の準備に時間がかかるため、 手術室に入ってから手術が実際に始まるまでに約1時間かかります。 手術は普通1時間から2時間かかります。 しかし、癒着があると剥離に時間を要し、手術時間がそれ以上に 長くなります。

7. 癒着がある場合の対処

肺が胸壁に癒着していると、十分な視野が得られず、胸腔鏡下の手術は不可能です。 癒着が軽度の場合は胸腔鏡下に癒着を剥離してから行うことも可能ですが、癒着が高度の場合はそれもできないことになります。 その場合、小開胸(約10cm程度の皮膚切開を追加して肋骨の隙間を大きく開く)を追加しなければならないこともあります。

8. 術後の経過

自然気胸

術後は胸腔ドレーンというチューブが胸の中に入っています。 このチューブは胸腔内を生理的な陰圧に保つために、 低圧持続吸引器という吸引ポンプに接続されています。 肺の剥離面や切除断端から空気漏れがある間は このチューブは抜去できません。 ほとんどの患者さんは手術の翌日に抜去可能となります。 しかし術後に空気漏れのある方は空気漏れが完全に止まるまで 胸腔ドレーンが抜去できないことがあります。

手術終了後は回復室で約1時間麻酔を覚まして病室に帰ります。 午前中の手術の場合夕食から、午後の手術の場合翌日の朝から 食事摂取が可能です。通常、胸腔ドレーンがはずれて翌日に 退院です。抜糸は1週間後外来通院で行います。

9. 手術の主な合併症について

a).出血

手術による出血は極少量で、輸血の必要はまずありません。 万一、コントロール不能な出血が起こった場合は、操作孔を 増やすか、小開胸で対処できます。

b).肺からの空気漏れ

剥離面や切除断端から空気が漏れて、胸腔ドレーン抜去後でも 肺が縮むことがあります。 このような場合は胸腔内に再び胸腔ドレーンを挿入して 持続脱気療法を行なえば治まります。 しかし、長期に空気漏れが続く場合は胸腔ドレーンから癒着剤を 胸腔内に散布することがあります。

c).軽度の前胸部の皮膚のしびれ感

胸腔鏡手術は肋骨と肋骨の狭い隙間にカメラを入れて 操作するため、その部分の肋間神経が圧迫されて1時的に 皮膚がしびれた感じが残ることがあります。 肋間神経は切断されているわけでなく、一過性で、 大部分の方はしびれは1~2ヶ月で消失します。

10. 原発性自然気胸に関するよくある質問 Q & A

Q1:原発性自然気胸の治療薬はあるのですか?
A:原発性自然気胸の原因はブラ・ブレブの破裂が原因であることが知られていますが、ブラ・ブレブがなぜできるのかは、まだ分かっていません。 従って、今のところ根本的にブラ、ブレブを発生させない、あるいは縮小させる治療薬はありません。 自然気胸が起こったら、脱気療法(軽度の場合は安静療法)を行いパンクした穴が自然に塞がるのを待つか、手術でブラ・ブレブを切除するしか、今のところ方法はありません。

Q2:遺伝性はあるのですか?
A:原発性気胸の原因であるブラ・ブレブは体質的に肺の表面の膜が剥がれやすい人にできます。 剥がれた膜が風船状に膨らんだものがブラ・ブレブになると考えられています。 今のところ原発性気胸に関しては遺伝子の異常は見つかっていませんが、親子・兄弟で体質が似通っていて気胸になりやすいと言われています。 しかし、私ののべ約800例の経験では、親子・兄弟の関係で原発性気胸を発症した御家族は数例しかありません。

Q3:再発はいつ起こるのですか?
A:原発性自然気胸の原因であるブラ・ブレブの破裂は偶発的なもので、いつ起こるか分かりません。 初発の気胸が治って数日経って再発した人から、5年以上経って再発した人もいます。 肺に急激な圧力が掛かる怒責時に起こりやすいと考えられますが、何ら誘因なく寝ころんでテレビを見ていて起こった人もいます。

Q4:再発を予防する方法はあるのですか?
A:原発性自然気胸を初めて起こした人が2度目を起こす確立は約50%と言われています。 従って半数の人は二度と再発しないということになります。 先に述べました通り、ブラ・ブレブの破裂は偶発的なもので、これがある限りは再発の可能性があり、再発を予防する薬も手段も今のところありません。 原発性自然気胸は痩せ型の人に多いことが知られていますが、体重を増やして太っても予防にはなりません。

Q5:普段激しい運動(体育、クラブ活動など)はしてはいけないのですか?
A:先ほど申しましたように、何も誘因なく寝ころんでテレビを見ていて起こった人もいます。 24時間365日気胸の再発に怯えて安静に生活することは不可能ですし、無駄なことです。 以前と変わらぬ生活をし、スポーツや管楽器の演奏なども以前と変わらずやればよいと思います。 それで再発したときは保存的に治療するか、思い切って手術を受けることをお勧めします。 手術で100%再発を防げるとは言えませんが、再発率をかなり減少できることは確かです。

Q6:手術はどうしてもしなくてはいけないのですか?
A:原発性自然気胸は癌の様な悪性の病気ではありません。 従って、手術しなかったからといって生命が脅かされることは、後に述べる特殊な状況を除いてまず無いと言って良いでしょう。 再発を繰り返すたびに再発率が高くなることが知られていますが、どうしても手術をしたくなければ、その都度何度でも保存的治療を行っても差し支えはありません。

Q7:飛行機で海外に行きスキューバダイビングをする予定があるのですが、大丈夫でしょうか?
A:空気は気圧の低下で膨張する性質があります。 登山をする方は経験があると思いますが、ポテトチップスを山に持っていくと1500m級の山ではリュックサックの中で袋が風船のようにパンパンに膨らんでいます。飛行機が上昇するとき鼓膜が圧迫されて耳が痛くなるのを経験したことがあるかと思いますが、この時気圧が急速に低下しているのです。 原発性気胸の原因となるブラ・ブレブは気圧の低下で膨張しパンクする可能性があります。 従って、飛行機に乗ること自体が気胸発症の誘因となります。 更に、緊張性気胸といって胸腔内に漏れた空気が膨張して肺や心臓・大静脈を圧迫する状態に発展し、呼吸困難や心停止を来して生命の危険を招くことがあります。 短時間のフライトであれば何とかなるかも知れませんが、長時間のフライトとなると、飛行機に医療器具が備わっていて、医師が同乗していれば応急処置ができて助かるかもしれませんが、期待はできません。 航空会社では気胸の既往があると、手術を受けなければパイロットとして採用しないことになっていると聞きます。 またスキューバダイビングも同様で、5m以上の海底で気胸を発症すると海面に上がってくるにつれて水圧(気圧)が低下するため、緊張性気胸の状態になって呼吸ができなくなり心肺停止する恐れがあります。 以上のことから、飛行機で長時間フライトをする予定がある方やスキューバダイビングをする方には、初発であっても手術することをお勧めします

Q8:手術を受けることにしましたが、反対側も予防的に手術をしておいた方がよいのですか?
A:原発性自然気胸の原因になるブラ・ブレブは両側に発生しているのが普通です。 病院でCTを撮って反対側に無くても、手術をしてみたらCTに写らない小さな病変があるものです。 しかし、ブラ・ブレブがあるからと言って必ず気胸を発症するわけではありません。 中にはブラ・ブレブを持っていても一生気胸を発症しない人もいます。 例えば右が気胸になって、CT上左にブラがあっても一生左に気胸を起こさない人もいます。 それまで両側に気胸を発症したことがある人は、今回右側の気胸であっても予防的に左の手術を受けておくことも良いかと思われます。 それは、反対側に気胸の既往がある人は同側に気胸を再発する確率が高いことが知られているからです。 主治医の先生とよく話し合って決めて下さい。

Q9:手術後どれくらい経ったら運動を始めても良いのですか?
A:術後の運動開始時期については決まったものはありません。 医師によっては術後2ヶ月間運動を制限する先生もいます。 私個人としては術後2週間経てば運動を再開して良いと考えています。 しかし、これも確固たるエビデンスに基づいたものではありません。 手術をされた主治医の考えに従って下さい。

多汗症

○多汗症とは

  • 交感神経が失調し,体温上昇とは関係なくエクリン腺より汗が過剰に分泌される疾患。
  • 全身性,局所性(頭部,手掌,腋窩,足底など)
  • 発汗過多により,仕事や勉強など社会生活に支障を来し,患者の生活の質を著しく低下させる。

○多汗症の分類

  • 原発性
    原因不明,常染色体優性遺伝?(2006年佐賀大学)
  • 続発性
    甲状線機能亢進症,褐色細胞腫,先端肥大症などに合併する一症状

○原発性手掌多汗症の重症度分類

[レベル1]

  • 湿っている程度
  • 見た目は分からないが,触ると汗ばんでいる。
  • 水滴ができるほどではないが,汗がキラキラと光っている。

[レベル2]

  • 水滴ができているのが見た目にもはっきりと分かる。
  • 常に濡れている状態だが,汗が流れおちる程ではない。

[レベル3]

  • 水滴ができて汗がしたたり落ちる。汗溜まりができる。

○原発性多汗症の疫学と治療

[有病率] (2010年厚生労働省研究班の推計)

  • 日本人の約5.7%(約680万人)
  • 手掌多汗症5.3%,腋窩多汗症5.7%,足蹠多汗症2.7%
  • 「常に耐え難い苦痛を感じる」重症患者は約80万人
  • 手術以外に効果がないと考えられる難治性は4.5万人
  •   

[治療]

  • 塩化アルミニウム液の外用
  • イオントフォレーシス
  • ボトックス(ボツリヌス毒素)注射
  • レーザー照射(主に腋窩)
  • 胸部交感神経ブロック(切除を含む)
       

○原発性手掌多汗症に対する胸部交感神経ブロック

一口に交感神経ブロックと言っても色々あります

原発性手掌多汗症に対する胸部交感神経ブロック

○原発性手掌多汗症の手術適応

原発性多汗症に対する手術の絶対適応といえる病態はありません。あくまでも患者さん本人の多汗症に対する悩みの大きさが決定するものです。従って,医師が積極的に手術を勧める病気ではないことを御理解下さい。

入院期間

外来受診時に一度術前検査が必要です。手術日をあらかじめ相談の上決定しておき,その前日に入院していただきます。
術後問題がなければ手術の翌日に退院が可能です。
抜糸は外来通院で術後7日目に行います。

1日目 2日目 3日目
午後入院・麻酔科診察 手術・帰室後歩行可能 問題なければ午前中に退院

○原発性手掌多汗症に対する胸部交感神経切除

1990年代前半に胸腔鏡手術が可能になってから普及。副作用として代償性発汗が約90%に発生すると言われています。

  • 大腿,腹部,背部に発汗が増加
  • その程度は個人差が大きい
  • 手掌の発汗は停止するが,代償性発汗が患者の新たな悩みになることもある。
  • 我々は交感神経を損傷せず発汗停止を得られ、理論的に代償性発汗を来しにくい術式、胸腔鏡下胸部交感神経交通枝切除に,若干の改善を加えて施行しているので紹介します。


    当科で開発し,行っている胸腔鏡下胸部交感神経交通枝切除 Thoracoscopic Sympathectomy of the Rami Communicantes (Ramicotomy) for Primary Palmar Hyperhidrosis
    交感神経解剖理論に基づく代償性発汗の少ない多汗症手術

    交感神経の解剖生理

    交感神経の解剖生理

    汗腺を支配している交感神経は,脊髄で知覚神経からの温度情報を受けた後,脊髄神経前根から出て,一度白交通枝を通って交感神経幹の神経節に入り,ここで脳からの情報(精神緊張等)も含めてシナプスを介してニューロンを替え,灰白交通枝を通って再び脊髄神経に入り,汗腺の発汗を制御している。

    理論的背景

    1.手掌の発汗停止について

    手掌の発汗停止について

    交感神経の解剖生理に基づけば,交感神経節を切除または焼灼しなくとも,理論的には目的とするレベルの灰白交通枝のみを切れば,汗腺への交感神経支配を遮断できるはずである。従って,発汗を止めるために胸部交感神経節を切除または焼灼する必要はないと考えられる。

    2.代償性発汗について

    代償性発汗について

    代償性発汗のメカニズムは解明されていないが,胸部交感神経節を切除または焼灼すると,脳からの制御を含めた上下の交感神経網が遮断され,そのレベルより尾側の自律神経失調を来すことが一因と考えられる。交通枝切除は交感神経幹(神経節)を損傷しないため,理論的に代償性発汗は来さないはずである。

    交感神経交通枝切除の歴史

    交感神経交通枝切除は2001年Lin TSによって原発性多汗症の術式として提唱された。
    その後Lee DUらが交感神経切除と交通枝切除の比較試験を施行

    交感神経交通枝切除の歴史

    Leeらの手術成績

    無効率:
    交感神経切除 (6.25%) vs. 交通枝切除 (30.1%)
    代償性発汗:73.4% vs. 49.4% (p<0.001)
    耐え難い代償性発汗:43.3% vs. 15.5% (p<0.01)

    無効の原因:
    ・切除範囲が小さい。
    ・異常な交通枝が肋間神経に入っている可能性。
    文献:Lee DU, Kim DH, Paik HC. Selective Division of Rami Communicantes (T3 Ramicotomy) in the Treatment of Palmar Hyperhidrosis. Ann Thorac Surg 2004;78:1052-5.

    代償性発汗は少ないものの,無効例が多いためこの術式はその後採用されなくなっていた。
    この術式に上記の欠点を補って,以下で紹介する新しい術式を当科で開発しました。


    当科で行っている胸腔鏡下胸部交感神経交通枝切除の工夫

    胸部交感神経交通枝の切離レベル

    T2〜T4ではsympathectomyとramicotomyの代償性発汗出現率は72.2% vs. 70.9%で有意差なし。
    文献:Gossot D, Toledo L, Fritsch S, et al. Thoracoscopic sympathectomy for upper limb hyperhidrosis: looking for the right operation. Ann Thorac Surg 1997;64:975-8. 

    T2 sympathectomyでは顔面にも発汗停止し不快である。
    文献:Kao MC, Chen YL, Lee YS, et al. Craniofacial hyperhidrosis treated with video endoscopic sympathectomy. J Clin Laser Med Surg 1994;12:93-5.

    T3 sympathectomyのみで100%手掌発汗が停止し,再発率は0%,重度の代償性発汗が少ない。
    文献:Li X, Tu YR, Lin M, et al. Endoscopic Thoracic Sympathectomy for Palmar Hyperhidrosis: A Randomized Control Trial Comparing T3 and T2-4 Abration. Ann Thorac Surg 2008;85:1747-52.

    側副枝の多様性と工夫

    交感神経交通枝切除の歴史

    第3肋間神経に流入する交感神経の側副路を全て遮断することが確実に発停止を得る一番の方策と考えられる。

    この術式で代償性発汗は皆無か?

    • 代償性発汗の発生メカニズムは多様性があり,現在のところ医学的に解明されていない。
    • この術式では,効果を確実にするために交感神経幹の側副枝であるKuntz枝を切るため,皆無ではないと思われる。
    • 第3肋間神経に入る灰白交通枝および側副枝を選択的に完全切離できれば理想的だが,細い神経は胸腔鏡下でも確認できないので実際は不可能。理論的には現在の術式でも過大手術で,改善の余地は残されている。

    手術の創とポートの設置

    交感神経交通枝切除の歴史

    術中風景

    交感神経交通枝切除の歴史

    手術の概要

    1. Kuntz枝の残存による再発が報告されているので,従来通り第3,4肋骨の骨頭から外側3cmを骨膜まで焼灼。
    2. 壁側胸膜を切開し,胸部交感神経幹を露出。
    3. 第3肋骨下縁と第4肋骨上縁で交感神経幹を剥離しテーピング。
    4. 白交通枝と灰白交通枝は肉眼では区別できないため,一括テーピングし切離。
    5. 第3胸部交感神経節と肋間神経を連結する交通枝を一括切離。

    手術について

    手掌の発汗停止について

    手術は全身麻酔で左右両方行います。
    胸腔鏡の手術は手術側の肺を完全に虚脱した(空気が入らない)状態にしないとできません。また,胸部の手術は生命に直結した肺,心臓が関係した手術でもあり,術中の異常を早期に発見するために各種のモニター類を装着する必要があります。そのための麻酔の準備に多少時間が掛かります。

    この手術は技術的に難しく,通常約1時間半から2時間を要します。しかし,癒着があると剥離に時間を要し,手術時間がそれ以上に長くなることがあります。手術終了後は回復室で約2時間麻酔が覚めるのを待ち,その後に病室に帰ります。

    癒着がある場合の対処

    肺が胸壁に癒着していると,十分な視野が得られず胸腔鏡の手術は不可能です。癒着が軽度の場合は胸腔鏡下に癒着を剥離してから行うことも可能ですが,癒着が高度の場合はそれもできないことになります。その場合,小開胸(約10cm程度の皮膚切開)を追加しなければならなくなることもあります。

    手術の効果

    胸部交感神経節を切除した直後から手掌の発汗が停止し,手の皮膚温が上昇します。理論的には説明が付かないのですが,患者さんによっては足底の発汗も停止または減少することがあります。

    手術の合併症

    a. 出血

    通常,手術時の出血は極少量で,輸血の必要はまずありません。万が一コントロール不能な出血が起こった場合は,操作孔を増やすか,開胸して対処します。

    b. 気胸

    癒着剥離を要した場合,剥離面から空気が漏れて肺が縮むことがあります。このような場合は胸腔内にチューブを挿入して持続脱気を行えば治まります

    c. 皮下気腫

    軽度の場合は何もしなくても自然に吸収されますが,高度の場合は気胸を合併していることがあるので,気胸の治療で治まります。

    d. ホルネル症候群

     合併症の内で最も重要なのはホルネル症候群といって眼瞼下垂,縮瞳,眼球陥凹が起こる病態で,胸部交感神経の第1番目の神経節の上1/3を傷つけたり,電気メスで通電したときに起こる症状です。多汗症の手術は交感神経節を切除または焼灼するのですが,神経節の第1番目と第2番目が極まれに癒合していることがあり,このような場合に起こる可能性があります。交感神経節を切除ではなく焼灼(電気メスで焼く)する施設での報告がありますが,当院では第3交感神経節のみの処置ですので,ホルネル症候群は経験していません。

    e. 再発

    多汗症に関しては文献的にも再発はほとんどありません。交感神経節を切除する施設での報告はありませんが,焼灼する場合は焼灼が不十分で神経が再生し再発する可能性があり,実際にその報告があります

    おわりに

    最初に記述したとおり,手術を受けるかどうかを決めるのは,あなたの症状の程度とそれに対する悩みの大きさです。社会生活を送る上で,ご自分で耐え難い発汗であると思っている方には手術をお勧めします。

    このページを熟読し,手術の利点・欠点を十分理解した上でご自分で手術を受けるかどうかを判断して下さい。
    また,あなたが未成年者であるときは,ご家族とよく相談の上で決めて下さい。