1.診療科について

診療内容

血液内科

現在、血液内科専門医3名、医師1名、専攻医3名で診療を担当します。
対象疾患は、悪性リンパ腫、急性白血病、慢性白血病、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、骨髄増殖性腫瘍のほか、造血障害、各種貧血、血小板減少疾患、凝固異常症等です。
南館4階病棟に無菌室5床を整備し急性白血病に対する強力な抗がん剤治療に利用しています。

医師のご紹介

外来診察表

血液内科

治療の基本方針

血液悪性疾患では65歳以下の若年の場合、標準治療により多くの寛解導入と その後の治癒が期待できます。悪性リンパ腫の場合、計6回の化学療法を原則3週間に1回の割合で反復します。65歳以上の高齢者では臓器合併症の有無や予備力の評価が重要で、 時に薬剤の減量が必要です。他のがん種に比べて治療が強力で治療後に重症感染症や 臓器障害を合併する危険性があるため、80歳以上の超高齢者では本人及び家人と 相談しながら治療方針を検討します。

血液カンファレンス

医師、看護スタッフ、薬剤師、がん相談支援センター支援員による 多職種カンファレンスを行いスタッフ間で治療方針や診療上の問題点を確認し患者情報を共有します。

関連施設及び臨床研究

当科は岡山大学血液腫瘍内科の関連施設です。血液腫瘍内科が主催している岡山血液疾患研究グループ(Okayama Hematology Study Group:OHSG)の臨床研究へ参加しています。
急性白血病の治療では、日本成人白血病共同研究グループ(Japan Adult Leukemia Study Group:JALSG)や日本細胞移植研究会(Japan Study Group for Cell therapy and Transplantation : JSCT)の臨床試験などに参加しています。

研修希望及び認定医資格の取得について

当科では後期研修医を募集しています。病院見学を希望される場合には当院人事課へご連絡下さい。
当科は、日本血液学会、日本臨床腫瘍学会、日本がん治療医認定機構の教育研修施設です。 取得可能な資格は日本血液学会専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医、日本がん治療医認定機構認定医です。

2.主な疾患と治療法

主な疾患の解説

悪性リンパ腫

悪性リンパ腫はリンパ組織由来の悪性疾患です。 治療は主に抗がん剤による化学療法です。局所治療が必要な場合には放射線治療を行います。 完全寛解とその後の治癒を目指します。化学療法は治療ガイドラインに従い標準治療を行います。 保健適応のある新規抗がん剤の早期導入を心がけております。

白血病

急性白血病は急速に進行する悪性疾患です。無治療の場合短期間で命にかかわることになります。強力な化学療法により寛解を得て、寛解後化学療法、あるいは造血幹細胞移植を行うことで治癒を目指して治療を行います。
慢性骨髄性白血病は無治療の場合急性転化をきたして命にかかわる状態になります。分子標的薬のチロシンキナーゼ阻害剤の内服のみで生涯にわたって寛解状態を維持できます。

骨髄異形成症候群及

骨髄の造血機能に異常が生じて血球が減少する悪性疾患です。一部は白血病化する傾向があります。血球減少のみの場合には造血刺激薬、白血病化の傾向があれば化学療法が行われます。現時点で造血幹細胞移植以外に治癒が期待できる治療はありません。患者さんの状況に応じた治療が選択されます。

多発性骨髄腫

比較的高齢者に多い疾患です。免疫グロブリンを産生する形質細胞が腫瘍化します。完治は難しい疾患ですが、多数の新薬が導入されています。長期に治療を行いますが、治療成績は向上しており長期の生存が可能になってきました。

造血幹細胞移植、骨髄移植

現在、当科では造血幹細胞移植は実施しておりません。造血幹細胞移植が必要な場合には岡山大学等と病院連携をとって施行しております。

各疾患の具体的な診断と治療

悪性リンパ腫の診断と治療

悪性リンパ腫とは

悪性リンパ腫はリンパ組織の悪性疾患です。その半数は頚部、腋窩、そけい部のリンパ節に生じ残り半数は全身の臓器に生じます。頻度の多い臓器や部位は胃、扁桃腺、鼻腔、大腸、甲状腺で、その他に、肺、肝臓、膀胱、骨、皮膚、骨髄に病変を生じます。

組織分類と悪性度

悪性リンパ腫は、組織分類ではホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に大別されます。患者数が多いのは非ホジキンリンパ腫です。さらに非ホジキンリンパ腫はB細胞型リンパ腫とT細胞型リンパ腫に分類されます。組織分類の種類は多く、およそ30種類から40種類もの組織分類があります。
組織分類は、病気の進行する早さを示す悪性度と関連しています。悪性度は、週単位で急速に進行する高悪性度、月単位で病期が進行する中悪性度、数ヶ月から年単位で病期が進行する低悪性度の3つに分類されます。中悪性度の中で患者数の多い組織型はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫で、低悪性度の中で患者数の多い組織型はろほう性リンパ腫です。

組織診断とリンパ節生検

リンパ節腫脹を認めた場合、診断目的にてリンパ節生検を行います。病理検査により組織診断を行い、さらにリンパ腫細胞の表面蛋白マーカーの分析や遺伝子の束である染色体検査にて予後不良因子の有無を判断します。

悪性リンパ腫の症状

症状として、リンパ節原発の場合には、頚部、腋窩、そけい部に、リンパ節腫脹を生じます。通常、腫脹したリンパ節は硬めで痛みを伴うことはまれです。臓器に病変を生じた時には、臓器特有のがんの時と同じ症状を認めます。進行期の場合には、発熱、食欲不振、体重減少などの全身症状を伴い、それらはB症状と呼ばれます。

悪性リンパ腫の検査

悪性リンパ腫での検査の目的は、臓器予備力の評価、合併症の確認と病気の広がりを判定することです。血液検査にて肝機能検査、腎機能検査を行い、胸部レントゲン検査、心電図にて各臓器の予備力を判定します。また、治療上問題となる合併症の有無につき評価をします。血液検査では、B型肝炎、C型肝炎の有無や糖尿病の有無についても評価します。
病気の広がりについては、画像検査では全身CT検査を行います。可能であれば近医にてPET-CT検査を行います。PET-CT検査は悪性リンパ腫に関してはとても有用な検査で微小なリンパ節病変の検出が可能です。その他、骨病変や肝臓、脾臓へのリンパ腫の浸潤の検出も可能です。また、胃カメラ検査にて胃病変の確認と骨髄検査にて骨髄中へのリンパ腫細胞の浸潤の有無を判断します。

臨床病期と治療の計画

病気の進展を示す臨床病期は、病変が局所に限局したⅠ期、Ⅱ期と病変が広い範囲に進展したⅢ期、Ⅳ期に分類されます。通常、Ⅰ期、Ⅱ期では、抗がん剤を用いた化学療法3コースと放射線治療の組み合わせ治療を行い、Ⅲ期、Ⅳ期の進行期では、原則3週間に1回の割合で化学療法6コースを行います。

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の治療

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対する標準治療は、リツキシマブを併用したCHOP療法です。CHOP療法は、エンドキサン、アドリアマイシン、オンコビンの3種類の抗がん剤と副腎皮質ホルモン剤のプレドニンの合計4剤を組み合わせた治療です。非ホジキンリンパ腫に対して有効で従来の標準治療です。リツキシマブは、リンパ腫細胞の表面にあるCD20蛋白に対する抗体です。単剤でも抗腫瘍効果があり、CHOP療法に併用することで上乗せ効果があります。CD20陽性リンパ腫に対してリツキシマブ併用CHOP療法は標準治療として位置づけられています。治療効果として8割近い患者で病変が全て消える完全寛解が得られ、5割近い患者で再発のない治癒が期待できます。
新しい標準治療としてポラツズマブ・ベドチンとリツキシマブを併用したCHP療法を開始しました。治療効果の改善が期待できます。
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫を含む中悪性度リンパ腫の予後は、①年齢 ②血液検査のLDH ③全身状態 Performance Status ④臨床病期 ⑤リンパ節以外の病変の数の5項目からなる国際予後指数により低リスク群、低−中リスク群、高−中リスク群、高リスク群の4群に分類されます。国際予後指数での高リスク群や、治療抵抗性を示す染色体異常が検出された症例や早期に再発した症例では、65歳以下の若年であれば、再発予防を目的として自家末梢血幹細胞移植を組み込んだ治療計画を検討します。

ろほう性リンパ腫の治療

ろほう性リンパ腫は、病状が緩除に進行する悪性リンパ腫です。無治療でもあまり病状が進行しないこともあり、明確な標準治療が確立されていません。推奨される治療内容や治療方針には、1.従来の化学療法の実施、2.新規の化学療法の実施、3.リツキシマブまたは新規の抗CD20抗体ガザイバを併用した化学療法の実施、4.リツキシマブの単剤治療、5.無治療にて経過観察などがあります。当院では診断後はタイミングを見てリツキシマブ併用化学療法の実施を勧めています。また、再発や再燃を認めた場合にも明らかな進行がなければ経過観察としています。

高悪性度悪性リンパ腫の治療

高悪性度の悪性リンパ腫の場合、CHOP療法では治療効果が十分ではなく再発する危険性が高いため、急性白血病に準じた強力な化学療法を実施します。しかし、その治療が著効した場合には治癒を期待することができます。

治療完遂の意義

悪性リンパ腫の治療では、一定の期間内に治療スケジュールを完遂することが大切です。その結果、多くの患者で寛解導入とその後の治癒が得られます。具体的には、感染を含む治療関連の合併症の予防と、合併症の発症時には早期診断と治療を行い重症化させないことが重要です。

急性白血病の診断と治療

症状と診断

急性白血病は、骨髄中の幼弱な細胞が腫瘍化し急速に進行する疾患です。無治療の場合は数日間で命に関わる状態となります。症状としては、正常な白血球減少による発熱や肺炎などの感染症状、赤血球減少による息切れや動悸などの貧血症状、血小板減少による鼻出血や歯肉出血、出血斑などの出血症状を生じます。急性白血病が疑われた場合には骨髄検査を行い、細胞形態分類、腫瘍細胞の表面マーカーの分析や染色体検査、白血病関連の遺伝子検査を行います。

急性白血病の分類

急性白血病は、白血病細胞の種類により急性骨髄性白血病(AML)と急性リンパ性白血病(ALL)に分類されます。成人ではおおよそ4対1でAMLの方が高頻度です。AMLの中には治療薬剤の異なる急性前骨髄性白血病(APL)があり、またALLは、フィラデルフィア染色体(Ph)陰性ALLとPh陽性ALLに分けられ、それぞれ治療薬剤が異なります。現在、急性白血病は、血球形態や、染色体異常、遺伝子変異によりその種類はさらに細かく分類され、治療効果や予後を判断します。

予後因子とリスク分類

急性白血病の予後に関わる要因として、AMLでは、年齢や、初診時の白血球数、形態分類(FAB分類)、染色体異常などがありますが、近年は遺伝子異常と治療成績との解析が進み、最も予後を左右する因子は、染色体、遺伝子異常のタイプであることがわかってきました。これらにより予後良好群、予後中間群、予後不良群に分類されます。
ALLでは、Ph染色体陽性は大きな予後不良因子であり、通常のALLと異なる治療薬剤や治療方針を実施します。Ph陰性ALLでは、年齢や、初診時の白血球数、.染色体異常、寛解に要した期間などにより、高リスク群を判定します。また、近年遺伝子解析がすすみ、化学療法後にわずかに残った残存腫瘍細胞を検出することも可能になってきました。高リスクの患者さんや、化学療法の効果が十分でない場合、寛解後治療として造血幹細胞移植の追加を検討します。

無菌管理と準無菌室について

急性白血病の治療は、強力な抗がん剤治療です。副作用として、治療後3週間程度は著しい白血球減少をきたし感染症を生じやすくいなります。この期間は重症肺炎など重篤な感染症を合併することがあるため無菌管理が必要です。当院では、準無菌室を利用して無菌管理を行います。これにより安全に治療を行うことが可能です。

急性白血病の治療の手順

治療の手順として、まず、入院後早期に複数の抗がん剤による化学療法を行います。初回治療では、骨髄検査にて白血病細胞が消失し造血が正常となる完全寛解を目指します。この治療を寛解導入療法と言います。寛解導入の後は、残存する白血病細胞をさらに減少させるため、強力な化学療法を反復します。これを地固め療法と言います。地固め療法により病気が再発しない治癒の状態を目指します。病型によってはさらに維持療法を行います。化学治療だけでは再発の危険性が高い高リスク群や、再発後に再度の寛解導入療法で2度目の完全寛解となった場合は、造血幹細胞移植を検討します。

急性骨髄性白血病(AML)の治療と成績

AMLの標準治療として、寛解導入療法は、イダルビシンまたはダウノルビシンと、シタラビンの2種類の抗がん剤を7日間投与します。7-8割の患者さんが完全寛解となります。その後は、薬剤を変更して地固め療法を3回から4回行います。治癒する割合は、予後良好群でおおよそ7割、予後中間群で4-5割、予後不良群で1-2割程度です。若年の場合には予後不良群でも寛解後治療として造血幹細胞移植を行うことで5割以上の患者さんで治癒が期待できます。また、FLT3遺伝子変異のあるAML(約25%でみられます)に対しては、上記の治療に加え分子標的薬の併用が可能となり治療成績の改善が期待されます。(なお、強力な化学療法ができない高齢の方などAMLの治療に関しては別項に記載しております)

急性前骨髄性白血病(APL)の治療と成績

AMLの中でもAPLは、播種性血管内凝固症候群(DIC)を合併し出血症状を伴う重篤な白血病です。APLに対して、レチノイン酸の内服にて白血病細胞を正常白血球へと変化させる分化誘導療法が非常に有効です。レチノイン酸の内服と、必要に応じて抗がん剤治療を併用し、DICをコントロールすることで9割以上の患者さんで完全寛解が得られます。寛解後は化学療法及び、APLに極めて有効な亜ヒ酸を用いて地固め治療を行うことで、8割以上の患者さんに治癒が得られるようになってきました。

通常の急性リンパ性白血病(ALL)の治療と成績

Ph陰性のALLの標準治療として、ビンクリスチン、ダウノルビシン、シクロホスファミド、L-アスパラギナーゼの4種類の抗がん剤と副腎皮質ホルモンを併用し、3週間かけて寛解導入療法を行います。7-8割の患者さんが完全寛解となります。寛解後は、薬剤を変更しながら、数回の地固め療法を行い、その後は外来にて、内服薬などでの維持療法を2年間継続します。またALLでは脳神経系に再発を生じる可能性があるため、抗がん剤の髄腔内注射を併用します。
従来、成人ALLでは治癒率は不良でしたが、近年では小児のALLに準じた化学療法を成人にも導入することで治療成績の大幅な改善がみられています。5割以上の患者さんで治癒を得ることが期待できるようになってきました。また、新たな抗体療法も導入され、難治性の場合や再発の場合でも、これらの治療を駆使して、再度寛解に導入し、造血幹細胞移植を行うことで治癒を目指すことが出来るようになってきました。

フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph陽性ALL)の治療と成績

Ph陽性ALLは、従来は極めて予後不良で、チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の登場以前は寛解に導入できなかったり、また早期再発も多く、造血幹細胞移植の実施も困難で、長期生存は極めて困難でした。しかし、慢性骨髄性白血病治療薬であるTKIと化学療法を併用した治療により成績が大きく改善し、9割以上の患者さんが完全寛解になるようになりました。その後、第二世代、第三世代のTKIと化学療法の併用により、治療成績がさらに改善してきています。寛解後に造血幹細胞移植を実施することで、高率に治癒が得られるようになってきました。

高齢者急性白血病の治療

急性白血病の患者さんのうち、約半数は65歳以上の高齢者です。高齢者では、併存疾患の合併や肝臓や腎臓などの臓器予備力が低下していることがあります。高齢者では若年者に行うような強力な治療の実施が困難で、治療後に重症肺炎や臓器障害を生じる危険性があります。また、白血病自体が治療抵抗性のことも多く、治療成績は不良です。高齢者白血病に対しては、若年者と同様に治癒を目指して治療を行う場合もあれば、生活の質(QOL)の維持を目指して治療を行う場合もあり、治療目標の検討、治療方法の選択、治療薬剤の使用量など慎重な対応が必要です。2021年より、急性骨髄性白血病(AML)に対して新たな化学療法(アザシチジン+ベネトクラックス療法)が導入され、この治療による高齢者AMLの予後の改善が期待されています。

慢性骨髄性白血病の診断と治療

慢性骨髄性白血病の診断

慢性骨髄性白血病は、造血幹細胞のがん化により生じる血液のがんです。慢性白血病では、様々な分化段階の白血球系細胞が存在し、経過は数年にわたり、ゆっくりと進行します。症状は無症状であることが多く、時に倦怠感や腹満感を伴うこともあります。人間ドックや健康診断の受診をきっかけに病気が見つかることも多くあります。
検査では、血液一般検査にて白血球数の著しい増加を認め、白血球数は2万から10万となります。幼弱な白血球から成熟白血球までの様々な白血球が増加します。慢性期では貧血や血小板減少を伴うことは稀で、むしろ血小板数は増加することがあります。骨髄検査でも、血液一般検査と同様、白血球系細胞の著しい増加を認め、幼弱な白血球から成熟白血球までの様々な白血球が増加します。骨髄の染色体検査では、9番染色体と22番染色体の染色体転座により生じるフィラデルフィア染色体異常を認めることが特徴です。最近は、血液検査でもフィラデルフィア染色体異常を確認することが可能です。フィラデルフィア染色体異常により強力なABLチロシンキナーゼ活性を持つ異常蛋白が合成され、その結果、造血幹細胞が異常な増殖を始め、白血病細胞の増加を生じます。

病気の時期

病気の時期には、3年から5年かけてゆっくりと病気が進行していく慢性期、白血病化して急速に病状が進行する急性転化、その間の期間の移行期の3つの病期があります。

慢性骨髄性白血病、慢性期の治療

慢性期の慢性骨髄性白血病には、抗がん剤の内服治療を行います。治療効果はとても有効です。治療薬には、第1世代薬剤のイマチニブと第2世代薬剤のニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブ、第3世代薬剤のポナチニブの計5種類のチロシンキナーゼ阻害薬があります。チロシンキナーゼ阻害薬は、異常蛋白のABLチロシンキナーゼ活性を選択的に阻害し、白血病化をさまたげ病気を治します。グリベックによる長期の治療成績が定期的に報告されており、8年間の観察期間で、8割から9割の患者が再発することなく生存しています。第2世代の薬剤のタシグナとスプリセルでは、さらに良好な治療成績が期待されています。現在の治療目標は、治療薬にて短期間の内に病気を減少させ、分子学的寛解と遺伝子学的寛解を達成し、その後の生存期間を延長することです。

慢性骨髄性白血病、急性転化時の治療

白血病が急性転化した場合、急性白血病に準じた強力な抗がん剤による化学療法とチロシンキナーゼ阻害薬の内服を同時に行います。しかし、その治療成績は良好ではありません。また、治療後、寛解が得られ50歳以下の場合には、再発予防を目的として骨髄移植の実施が望ましいです。

治療期間とその有効性

治療が有効な場合はできる限り治療を継続します。治療期間が長い程、骨髄中の白血病細胞はさらに減少していき、より深い寛解を得ることができます。現在、治療期間や治療の終了時期に関しては、明らかな結論は得られていませんが、治療の継続により深い寛解状態を維持して、病状を急性転化へと進展させないことが大切です。

骨髄異形性症候群の診断と治療

診断

骨髄異形成症候群(MDS)は造血幹細胞の異常により生じる血液のがんです。進行は緩徐で、無症状で見つかることも多くあります。MDSは、主に60歳をこえる高齢者に生じ、発症の平均年齢はおよそ70歳です。骨髄検査では、赤血球、白血球、血小板の3血球系統の造血細胞に形態の異常を認めます。異常血球は正常に発育せず造血の途中で崩壊してしまうため、貧血、白血球減少、血小板減少などの血球減少を生じます。血球減少の組み合わせは1血球だけのものから3血球全てが減少するものまで様々で、重症の場合には赤血球や血小板の血液製剤の輸血が必要です。一部のMDSでは骨髄芽球の増加を生じ、病気が進行すると急性白血病に分類されます。

MDSの分類

MDSは、造血細胞の形態の異常、骨髄芽球の増加の有無、染色体検査での異常の有無より、①不応性貧血、②単系列の細胞異形を伴う不応性血球減少、③多系列の細胞異形を伴う不応性血球減少、④環状鉄芽球を伴う不応性貧血、⑤過剰芽球を伴う不応性貧血−1、⑥過剰芽球を伴う不応性貧血−2、⑦分類不可能なMDS、⑧5qマイナス症候群に分類されます。

重症度と予後

病気の重症度は、国際予後スコアシステム(IPSS)、あるいは、国際予後スコアシステムの改訂版(IPSS-R)が用いられます。IPSSでは、骨髄中の骨髄芽球数、染色体検査、血球減少の系統数の3項目により、低リスク群、中間リスク群−1、中間リスク群−2、高リスク群の4群に分類されます。また、IPSS-Rでは、超低リスク群、低リスク群、中間リスク群、高リスク群、超高リスク群の5群に分類されます。重症度により平均余命が異なり、IPSSによる50%生存期間は、低リスク群で6年、中間リスク群−1で3年6ヶ月、中間リスク群−2で1年、高リスク群で5ヶ月とされています。IPSS-Rでは、超低リスク群で9年、低リスク群で5年、中間リスク群で3年、高リスク群で1年6ヶ月、超高リスク群で10ヶ月です。重症であるほど平均余命は短く、より強力な治療が必要です。

症状と検査

症状は、貧血症状としては動悸、息切れ、ふらつきがあります。白血球減少では肺炎や敗血症など感染や発熱を生じ、血小板減少では鼻出血など粘膜出血や手足の紫斑など出血傾向を生じます。 検査では骨髄検査が重要です。骨髄検査では造血細胞の形態異常の有無、骨髄芽球の増加の有無を判断します。同時に染色体検査を行います。

治療の目的と方法

MDSは治療により根治することが難しい疾患であるため、治療目標は元気な状態での延命です。治療方法は、芽球が増加しないタイプ、芽球が増加するタイプ、血球減少の程度や染色体異常の種類により異なります。治療としては血球減少が主体である低リスク群には、蛋白同化ホルモン剤の内服やサイトカイン療法を行い、輸血依存性や芽球の増加を伴う高リスク群では化学療法を行います。サイトカイン療法では赤血球造血を刺激するエリスロポイエチン製剤や白血球の造血を刺激する顆粒球コロニー刺激因子製剤(G−CSF製剤)を使用します。芽球が増加するタイプでは抗がん剤による化学療法を行い、標準治療としてアザシチジン治療が推奨されています。アザシチジン治療では高い有効性が報告されており、治療が有効な場合にはできる限り長期間、治療を継続していくことが勧められています。他の化学療法としては、少量シタラビン治療もあります。補助療法としては重症貧血に対して赤血球製剤の輸血を行い、著明な血小板減少に対して血小板製剤の輸血を行います。重症例の場合には長期間にわたり輸血が必要となります。
他の治療方法としては一部のMDSに対して免疫抑制療法やレナリドマイド内服治療を行います。骨髄低形成型のMDSではシクロスポリン内服による免疫抑制療法が有効で、5qマイナス症候群ではレナリドマイド内服治療が有効です。
年齢が70歳以下で全身状態に問題がない場合には、根治を目指して骨髄移植など造血幹細胞移植を行うこともあります。
治治療方針に関しては、病型や重症度に加え、年齢、全身状態 Performance status、合併症の有無を考慮して検討します。特に70歳代や80歳代の高齢者の場合には慎重な対応が必要と考えます。

3.実績

診療実績

1年間の新規入院患者数(令和4年度)

悪性リンパ腫84名、急性白血病32名、骨髄異形成症候群20名、多発性骨髄腫13名、再生不良性貧血6名、その他、特発性血小板減少性紫斑病など。

1年間の新規入院患者数(令和3年度)

悪性リンパ腫86名、急性白血病20名、骨髄異形成症候群22名、多発性骨髄腫9名、慢性白血病6名、再生不良性貧血3名、その他、特発性血小板減少性紫斑病など。

1年間の新規入院患者数(令和2年度)

悪性リンパ腫82名、急性白血病23名、骨髄異形成症候群22名、多発性骨髄腫3名、マクログロブリン血症2名、慢性白血病2名、再生不良性貧血2名、その他、自己免疫性溶血性貧血など。

当院における急性白血病治療成績

(H.27年度~R.5年度上半期まで)

全91例の年齢中央値69歳(23~92歳)。

病型は、急性骨髄性白血病(AML)60例、急性前骨髄球性白血病(APL)8例、急性リンパ性白血病(ALL)23例。

抗がん剤治療を行った全例での5年全生存率は51.2%

年齢別の5年全生存率は65歳未満76.0%、65歳以上は34.5%

病型別の5年全生存率はAML31.4%、APL100%、ALL83.7%

当院における悪性リンパ腫の治療成績

(5年生存率、対象は平成21年から30年までの新規患者335名)

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(114名)

①全体74%、②年齢65歳以下78%、65歳から80歳74%、

③臨床病期1期及び2期86%、3期及び4期60%

ただし、80歳以上の超高齢者は治療成績の対象外とさせて頂きました。