1.診療科について

施設認定

ごあいさつ

当院は岡山県肝炎二次専門医療機関に認定されています。抗ウイルス療法(インターフェロン,核酸アナログ製剤)に対する肝炎医療費助成制度申請時の診断書作成も可能です。

医師のご紹介

外来診察表

当院は「岡山県肝炎二次専門医療機関」に認定されています。

主な診療内容

急性肝炎,慢性B型肝炎・C型肝炎,肝硬変,肝癌,脂肪肝,自己免疫性肝炎,原発性胆汁性肝硬変など,肝疾患全般にわたり診断と治療を行っています。

  • 腹部超音波・造影超音波
  • インターフェロン療法
  • 核酸アナログ療法
  • 肝生検
  • 経皮的ラジオ波焼灼術(RFA)
  • 腹部血管造影・肝動脈化学塞栓療法(TACE)
  • 噴門部胃静脈瘤に対するバルーン閉塞下逆行性閉塞術(B-RTO)
  • 難治性静脈瘤に対する経皮経肝静脈瘤塞栓術(PTO)

医療関係者の方へ

①肝臓内科では病診連携・病病連携により協力しつつ肝臓病の地域連携に貢献したいと考えています。
②B型肝炎,C型肝炎,肝癌の治療は急速に進歩しています。県からの抗ウイルス療法助成金制度もあります。治療適応の有無についてお気軽に御相談ください。
③B型肝炎,C型肝炎の方は肝機能検査が正常で無症状であっても肝がんが発生する場合があります。早期発見のためには無症候性キャリア・年1-2回,慢性肝炎の方・年2回,肝硬変の方・年4回,エコー(またはCT/MRI)での検査が必要です。脂肪肝から肝硬変・肝癌に進行することもあります。当科では定期的に画像診断チェックのご依頼に対応させていただきます。
よろしくお願い申し上げます。

研修医募集

肝臓内科では後期研修医および常勤医師を募集しています。
見学、研修などのご要望にも積極的に応じておりますので、ご遠慮なくご連絡下さい。

担当:小橋春彦 E-mail: kobashi0584@gmail.com

TEL:086-222-8811
FAX:086-222-8841

肝臓内科疾患情報

岡山赤十字病院肝臓内科 小橋 春彦,歳森 淳一,加藤 薫 
(2020年6月更新)

Ⅰ.B型肝炎

(1) 疫学と自然経過

B型肝炎ウイルス(HBV)は肝臓に特異的に感染する肝炎ウイルスの1つです。血液・体液を介して感染し、感染時期や宿主免疫との関係により無症候性キャリア、急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変、肝細胞癌などさまざまな病態を引き起こします。
わが国では人口の約1%がHBVの保有者(キャリア)と推定されています。ほとんどは出生時母子感染~幼少期感染が原因と考えられ、感染の後HBe抗原陽性・高ウイルス量・肝機能正常の無症候性キャリアとなります。1986年以降はワクチンとグロブリン投与により母子感染は予防されるようになっています。また2016年から出生者全員を対象とするHBVワクチンを接種するB型肝炎ワクチン定期接種が開始されました。
HBVキャリアとなった方の85~90%は成人期までに肝炎発症を経てウイルス量が減少し、HBe抗原陰性・抗HBe抗体陽性(HBeセロコンバージョンといいます)・肝機能正常となりますが、残りの方は慢性肝炎に移行します。慢性肝炎から年率2%の割合で肝硬変へと進行します。また無症候性キャリアから年に0.1~0.4%、慢性肝炎から年に0.5~0.8%、肝硬変から年に1.2~8.1%の割合で肝がんが発生します。この間自覚症状が何もなく、気づいたときにはすでに進行した状態だった、ということが多いのが現状です。HBVキャリアかどうかは血液検査で簡単に判ります。一度調べておくことをお勧めします。
一方、成人期のHBV感染は主に性行為感染によるものです。その場合急性肝炎を発症し、ほとんどの場合は臨床的治癒の状態となります。しかし、約1%は劇症肝炎という重篤な状態となる点に注意が必要です。また従来日本にはほとんど存在しなかったゲノタイプA(いわゆる欧米型)のHBVによる急性肝炎が近年急速に増加しており、その場合は急性肝炎の約10%が慢性肝炎に移行すると推定されています。今後ゲノタイプAのB型慢性肝炎が増加するのではないかと懸念されています。

(参考:日本肝臓学会編。「慢性肝炎の治療ガイド2008」 文光堂(2007年)、小橋春彦:「B型肝炎の最新の診断と治療」. 2007年度川崎病院教育テキスト)

(2) B型肝炎ウイルスマーカー

B型肝炎ウイルス(HBV)の状態を反映する各種の血液検査があり、B型肝炎ウイルスマーカーと呼ばれます。
1) HBs抗原(HBsAg):陽性の場合、現在HBVに感染していることを示します。最近HBs抗原量を詳しく測定することができるようになり、HBs抗原量の多寡によって今後の肝炎の経過予測や、核酸アナログ製剤(後出)を中止できるかどうかの判断材料として有用であることがわかって来ました。
2) HBs抗体:HBVの中和抗体。HBs抗体陽性の場合、過去にHBVに感染し現在は治癒していることを示します。ただし治癒した後も肝臓の中にごく微量ですがHBV DNAの一部が残っていると言われています(HBワクチン接種によって陽性化した人を除く)。
3) HBe抗原:無症候性キャリア期から慢性肝炎期のウイルス量が多い時期に陽性。
4) HBe抗体:活動期を経てウイルス量が減少し肝炎が鎮静化するとHBe抗原が陰性化しHBe抗体が陽性化します(HBeセロコンバージョンと呼びます)。ただし、HBe抗体陽性でもHBVが増殖し活動性の強い肝炎が続く場合もあり、必ずしも肝炎の鎮静化を示すわけではありません。
5)HBc抗体:高力価陽性は持続感染を、低力価陽性は過去の一過性感染を示します。ただしHBs抗体と同じく、HBc抗体が陽性の場合は肝臓の中にごく微量ですがHBV DNAの一部が残っていると言われています。
6)IgM型HBc抗体:高値陽性の場合はB型急性肝炎(初感染)であることを示します。
7)HBV DNA量:病態・予後・肝発癌に関与する因子として重要です。現在最もよく用いられている測定方法はリアルタイムPCR法(Taq-Man PCR法)で、微量から高濃度まで広い範囲の血中ウイルス量を測定することができます
8)HBV ゲノタイプ(遺伝子型)
HBV DNAの相同性に基づきA型からJ型まで9つ(IはCの亜型)のゲノタイプに分類されています。世界地域によって分布が異なり、予後や治療反応性の違いの主たる原因となっています。日本全体ではゲノタイプCが主体で(岡山では95%)、沖縄地方や東北の一部ではゲノタイプBが比較的多いことが分っています。インターフェロンの有効性に関連があります。また従来日本にはほとんどなかったゲノタイプAによる急性肝炎が増加しつつあります。

9)HBcrAg(HBVコア関連抗原)
HBVのコア抗原とHBe抗原を含むプレコア/コア遺伝子産物を測定するもので、HBVcccDNA量を反映すると言われています。核酸アナログ治療の方針(中止しても大丈夫かどうか)決定において有用です。

参考)

● 臨床検査データブック 2007-2008 高久 監修 黒川・春日・北村 編 医学書院
白鳥康史・小橋春彦「B型肝炎ウイルス遺伝子検査(HBV DNA)」。
●日本肝臓学会B型肝炎治療ガイドラン(第3.1版)2019年3月

(3) 診断の流れと経過観察

HBs抗原陽性と判明したら病歴・家族歴の聴取、診察、腹部超音波を行い、血液肝機能と各種ウイルスマーカーを測定します。特にHBe抗原の陽性/陰性、血中HBV DNA量、ALT、血小板数などが重要です。
ALTが異常値を示す場合は厳重に経過を観察し、異常値が持続し血中ウイルス陽性の場合には抗ウイルス療法の実施を検討します。ALTが正常値である場合は血液検査と腹部超音波により定期的に経過観察します。ただしALTが低値であっても肝硬変の場合には抗ウイルス療法の適応となる場合があります。

HBV感染者は肝発癌のリスクがあり、特に線維化の進行(肝硬変)と血中HBV DNA高値は高リスク状態です。肝細胞癌の早期発見には慢性肝炎では6か月毎、肝硬変では3か月毎の超音波(またはダイナミックCT、MRI)が必要です。腫瘍マーカー(AFP、PIVKA-II、L3分画)と組み合わせて実施します。なお無症候性キャリアからも発癌することがあるため、肝機能が正常であっても6(~12)か月毎の画像診断を要します。

(4) 治療

最も重要なことは治療適応の有無を決定することです。若年者では自然経過で鎮静化する例が多い一方、短期間で急速に肝硬変に至る症例もあります。年令、HBe抗原・抗体、血中HBV DNA量、AST、ALT、血小板数、肝予備能、腹部画像診断などから進行度、活動性を評価します。通常、半年程度は経過観察したうえで、血液肝機能検査の異常値が持続または出没し、活動性の肝炎があり今後さらに進行すると思われる場合が治療の対象となります。治療適応の決定に際して肝生検を行い肝組織像を参考とすることがあります。
治療法は抗ウイルス療法と肝庇護療法に大別されます。治療の長期目標は肝内におけるHBV増殖を低下させ肝炎を鎮静化し、その結果肝硬変、肝細胞癌への移行を防止することです。指標となるのは第1にHBs抗原の陰性化、第2にHBe抗原の陰性化とHBe抗体の陽性化(セロコンバージョン)、第3に血中HBV DNAの低下(3.3 Log IU/mL未満)、第4にALTの正常化(30 U/L以下)です。
抗ウイルス療法にはインターフェロン(IFN)と核酸アナログ製剤があります。それぞれ長所と短所がありウイルス側要因と宿主側要因を考慮して選択します。

IFNは抗ウイルス作用のほかに免疫賦活作用を持ち、奏功例では投与終了後も持続的な効果が期待できます。また投与期間が限定できること、耐性化がないことなどの利点が挙げられます。若年者や病態が進行していない方に適しています。ただし有効率はかならずしも高くないこと、注射が必要、副作用が強いことなどが問題となります。

一方、核酸アナログ製剤は経口投与が可能で副作用が少なく、血中HBV DNAの低下とALT正常化が高率に得られ、肝線維化の改善、肝予備能の改善や肝発癌抑制効果が得られます。肝硬変例、肝細胞癌治療後症例に対しても肝予備能改善効果を示します。その反面、一旦投与を開始すると終了することが困難で長期投与を必要とします。長期投与により薬剤耐性変異ウイルスの出現が問題となりますが、エンテカビル(ETV)およびテノホビル(TDF、TAF)は抗ウイルス効果が高く初回投与であれば耐性化率が低いため、現在核酸アナログ未治療例に対する第一選択として推奨されています。

(5) 治療ガイドライン

B型慢性肝炎(肝硬変を含む)の治療法選択の基準として日本肝臓学会B型肝炎治療ガイドライン(第3.1版 2019年)が発表されています。それによれば慢性肝炎の治療対象はHBe抗原の陽性/陰性にかかわらずALT 31 U/L以上かつHBV-DNA 2、000 IU/ml (3.3LogIU/ml)以上で、初回治療ではHBe抗原、ゲノタイプにかかわらず原則Peg-IFNを第一に検討することが推奨されています。ただしPeg-IFN不適応症例、線維化が進行し肝硬変に至っている可能性が高い症例などでは初回から核酸アナログによる治療を行うとされています。一方、肝硬変の症例ではHBV DNA陽性なら代償性・非代償性、HBV DNA、ALT値を問わず全てが治療適応となり、初回から核酸アナログ(ETV、TDF、TAF)の長期継続治療が推奨されています。

Ⅱ.C型肝炎

(1) 全体像 

1) 初めに
C型肝炎は急性肝炎から高率に慢性肝炎へ移行し、その後長期間にわたって緩徐に線維化が進行して肝硬変に至ります。肝硬変になると高率に肝細胞癌を合併し、C型肝炎関連死の最も大きな原因となります。C型肝炎治療の第一目標は抗ウイルス療法により血中のC型肝炎ウイルス(HCV)を持続的に陰性化させること(持続的ウイルス陰性化=SVR)です。第二目標は肝炎を鎮静化し、慢性肝炎から肝硬変への進行を防ぎ、ひいては発癌を抑制することです。そのためには抗ウイルス療法と肝庇護療法を適宜組み合わせて長期的にコントロールしていくことが必要です。

2) 急性肝炎から慢性肝炎への移行
わが国におけるHCV保有者数は約150万人と推定されます。HCVは血液・体液を介して感染し急性肝炎を発症します。C型急性肝炎の症状は軽いことが多く重症化、劇症化することはまれですが、高頻度に慢性肝炎に移行します。慢性化の徴候として、自・他覚症状が軽い、ALT上昇の程度が低い、ALTが多峰性に推移する、発症12週後に血中HCV RNAが陽性である、などが挙げられています。

3) 慢性肝炎の臨床像
C型慢性肝炎は20~30年という長期間にわたり炎症が持続し、線維化が緩徐に進行して肝硬変に変化します。自然経過の中でHCVが排除されて治癒することはほとんどありません。なお、血中HCV RNA陽性で血液肝機能が正常である「無症候性キャリア」と呼ばれる時期でも、肝生検を行なうと多くの場合ごく軽度ではありますが炎症所見が見られます。慢性肝炎の時期には自覚症状を伴わないことが多く、罹患していることに長年気づかず、知らないうちに肝硬変に至っていることもまれではありません。

参考) 小橋春彦、高木章乃夫、白鳥康史:C型慢性肝炎の自然経過。最新医学別冊 新しい診断と治療のABC 27 ウイルス性肝炎 p177-183、最新医学社、東京、2005.

(2)肝組織像と血小板数

慢性肝炎の進行を評価する上で組織像の理解が必要となります。慢性肝炎では門脈域を中心にリンパ球をはじめとした炎症細胞浸潤と線維化、肝実質内の肝細胞の壊死炎症が認められます。肝炎の持続に伴い線維化が進行し肝硬変に至ります。新犬山分類(1996年) では線維化のステージをF0(線維化なし) 、F1(門脈域の線維性拡大)、 F2(線維性架橋形成)、 F3(小葉のひずみを伴う線維性架橋形成)、 F4(肝硬変)の5段階に分類しています(表)。線維化のステージを推測する目安として末梢血中の血小板数が有用です。すなわち、F0、F1、F2、F3、F4の血小板数は、それぞれ20万、18万、15万、13万、10万以下/μl 程度であり、簡便な目安となります。

慢性肝炎の活動性が軽度の場合は線維化の進行は緩徐で、活動性が高度の場合線維化の進行は急速です。C型慢性肝炎は一般にB型慢性肝炎に比して活動性は軽度であり、それを反映してC型慢性肝炎はB型慢性肝炎に比して肝硬変への進行は緩徐です。しかしF1-2期に比してF3期は活動性が高くなり、線維化の進行速度が速くなる傾向があります。

参考) 小橋春彦、高木章乃夫、白鳥康史:C型慢性肝炎の自然経過。最新医学別冊 新しい診断と治療のABC 27 ウイルス性肝炎 p177-183、最新医学社、東京、2005.

(3) 診断の進め方

C型肝炎のスクリーニングとして、第一にHCV抗体を測定します。HCV抗体が陽性であれば血中HCV RNA量を測定(リアルタイムPCR法)で測定し、これが陽性であればHCV感染ありと診断されます。同時に血液肝機能検査(AST ALT など)、血球検査、腹部超音波検査を行います。リアルタイムPCR法ではHCV RNAの有無とウイルス量の結果を同時に知ることができます。

C型肝炎ウイルスにはいくつかに細分化され、わが国では7割の方はセログループ1型(ゲノタイプ1b)、3割の方がセロタイプ2(ゲノタイプ2a、2b)です。セログループ(ゲノタイプ)は抗ウイルス療法の選択に際して重要な指標となります。

(4) 肝硬変への進行と肝発癌 

1) C型慢性肝炎から肝硬変にかけての線維化の進行速度に関する報告によると、線維化ステージの進行速度は1年間で0.1程度と推測されています。約10年で線維化ステージが1段階進行することになります。ALT正常者では進行速度は1/2になります。また進行速度に関与する因子として感染時の年令(40歳以上)、飲酒(50g/日以上)、男性の3つを挙げられ、20歳以下で感染した場合30-40年かけて肝硬変へと進展するが40歳以上の年令で感染した場合、感染後10年くらいで急速に肝硬変へ進行することがあると報告されています。これらを総合的に見ると、C型慢性肝炎において線維化は平均して約10年毎にF1→2→3→4と1段階ずつ進行し、20-30年で肝硬変に移行します。注意すべき点は、線維化の進行速度(傾き)は直線的ではなく年令が進むに従って加速することであり、50代に入ると進行速度が速くなり50歳代後半から60歳台にかけて肝硬変になりやすいと考えられます。

2) 肝細胞癌の発生

HCVに初感染してから肝細胞癌が発生するまでの期間は約30年とする報告が多く見られます。発癌に関連する因子として線維化の進行、年齢、飲酒、男性、ALT高値が挙げられています。中でも線維化ステージの進行はもっとも重要です。 Yoshidaらは2890例のC型慢性肝炎患者を平均4.3年経過観察し、ステージ別に見た発癌率(/人/年)を、F0-F1で0.5%、 F2で2.0%、F3で5.3%、F4で7.9%と報告しています。また、発癌を抑制する因子としてインターフェロン治療を挙げています。またALT値の平均値が持続的に80 U/lを越えている症例は、80未満であった症例に比して肝細胞癌発生が有意に高率であったとの報告が見られます。

参考)小橋春彦、高木章乃夫、白鳥康史:C型慢性肝炎の自然経過。最新医学別冊 新しい診断と治療のABC 27 ウイルス性肝炎 p177-183、最新医学社2005.

(5) 治療

1)抗ウイルス薬

C型慢性肝炎治療の目標は血中HCV RNAの消失、その結果として肝硬変への進行および肝細胞癌発生を抑制し、長期予後を改善することです。近年、新しい抗ウイルス療法が次々と実用化され、現在では経口直接作用型抗ウイルス薬(DAA)併用によるインターフェロン(IFN)フリー療法が主流となっています。IFNフリーDAA併用療法は治療効果が高く副作用も比較的少ないので、高齢患者さんや肝硬変の方も治療することができ、早期に治療を導入することが推奨されています。

現在IFNフリーDAA併用療法によく用いられている薬剤は以下の通りです。

  • ソホスブビル/レジパスビル配合錠
  • エルバスビルとグラゾプレビルの併用
  • グレカプレビル/ピブレンタスビル配合錠
  • ソホスブビル/ベルパタスビル配合錠
  • ソホスブビルとリバビリンの併用

上記の中からHCVゲノタイプ、肝臓の状態、併存疾患(特に腎障害)、常用薬などの条件を考慮して適切な治療を選択します。

2)治療選択

日本肝臓学会のC型肝炎治療ガイドライン(2019年6月第7版)では以下のような治療選択が推奨され、C型肝炎に対する抗ウイルス治療は、ゲノタイプを問わず、初回治療・再治療ともIFNフリーDAA併用療法が推奨されるとしています。
・慢性肝炎・代償性肝硬変の初回治療
ゲノタイプ 1 型症例に対する抗ウイルス治療として、ソホスブビル/レジパスビル配合錠(重度腎障害がない場合)、エルバスビル+グラゾプレビル、グレカプレビル/ピブレンタスビル配合錠の3つが第一選択として推奨されています。
  ゲノタイプ2型についてはソホスブビル+リバビリン(重度腎障害がない場合)、グレカプレビル/ピブレンタスビル配合錠、ソホスブビル/レジパスビル配合錠(重度腎障害がない場合)が推奨されています。

・前治療不成功例に対する再治療
以前DAAを含む抗ウイルス療法を行うも不成功だった方の場合は薬剤耐性変異が惹起されている可能性が高く、慎重に検討したうえで治療法を選択することが必要となります。

・非代償性肝硬変
ソホスブビル/ベルパタスビル配合錠12週投与が選択肢となります。ただし重度の非代償性肝硬変に対する治療は肝臓専門医によって治療方針が決定されるべきで、投与の際には厳重な経過観察が望ましいとされています。

Ⅲ.肝細胞癌 

(0) 当科における最近の治療内容 (2017年1月~2019年12月) 

1) 入院患者数(肝癌を含む全疾患)

2017年4月~2018年3月 255
2018年4月~2019年3月 286
2019年4月~2020年3月 276

2) 肝細胞癌に対する治療実績(件数)

  TACE or TAI RFA SBRT MTT
2017年1月~12月 53 26 2 0
2018年1月~12月 55 27 2 4
2019年1月~12月 53 45 1 7

注)TACE 肝動脈塞栓療法
  TAI 肝動注化学療法
  RFA  経皮的ラジオ焼焼灼療法
  SBRT 体幹部定位放射線治療
  MTT  分子標的治療 (経口抗癌剤)

(1) わが国における実態 

現在わが国における死因の第一位は悪性新生物によるものです。平成30(2018)年に悪性新生物(腫瘍)で死亡した人は37万3、457人(27.4%)で、そのうち肝癌による死亡は25、922人で、男性では第5位、女性では第6位でした。数年前から肝癌による死亡数は減少しつつあります。(平成30年人口動態統計月報年計(概数)の概況 厚生労働省HPより引用)
第20回全国原発性肝癌追跡調査報告書2008-2009(肝臓60巻8号258-293、 2019)によると原発性肝癌のうち93%が肝細胞癌であり、肝細胞癌では慢性肝炎・肝硬変の既往は80.1%であったと報告されています。また肝細胞癌症例の60.7%がHCV抗体陽性、15.2%がHBs抗原陽性であり、肝細胞癌の原因としてB型およびC型肝炎ウイルスによる慢性肝炎と肝硬変が重要であることを示しています。一方、近年C型肝炎ウイルスを背景とする肝癌は減少傾向にあり、HBs抗原陰性かつHCV抗体陰性ある非B非C型肝癌が漸増しています(日本肝臓学会 平成27年度肝がん白書)。
C型肝炎では慢性肝炎から肝硬変へと線維化が進行するにつれて年間発癌率が上昇します。Yoshidaらは2890例のC型慢性肝炎患者を平均4.3年経過観察し、ステージ別に見た発癌率(/人/年)を、F0-F1で0.5%、 F2で2.0%、F3で5.3%、F4で7.9%と報告しています(Yoshida H、 et al. Ann Intern Med 131:174-81、1999)。
また高齢者になるに従って発癌リスクが高くなります。一方インターフェロン著効により発癌リスクは軽減します。

B型肝炎では 慢性肝炎、代償性肝硬変、非代償性肝硬変からの年間発癌率はそれぞれ<1%、2-3%、7-8%と報告されています。B型肝炎からの発癌リスクとして血中HBVDNA量高値、肝硬変、高齢、男性などが関与することが知られています。一方、肝機能が正常なB型肝炎ウイルス無症候性キャリアからも少数ではあるが肝細胞癌の発生が見られ、注意が必要です。

(2) スクリーニングと診断 

①スクリーニング(肝細胞癌サーベイランス)
肝細胞癌の発生に関して、B型・C型慢性肝炎、非ウイルス性肝硬変は高危険群、B型およびC型肝硬変は超高危険群であることが知られています。肝細胞癌を早期に発見するためにはこれらの症例を対象とした計画的なスクリーニングを行うことが必要です。 近年の画像診断の発達により肝癌をより早期に発見することが可能となってきました。高危険群では6か月毎、超高危険群では3-4か月毎にスクリーニングとして超音波検査と腫瘍マーカー(AFP/PIVKA-Ⅱ)を行うことが推奨されています。また超高危険群、腫瘍マーカーの上昇が続く症例、肝萎縮や進んだ肝硬変で超音波での腫瘍描出が困難な症例などではダイナミックCTあるいはダイナミックMRIの実施を年1-2度程度組み合わせます。

②画像診断の進め方
超音波検査で結節性病変が指摘された場合、ダイナミックCTあるいはEOB造影MRI を行います。典型的な肝細胞癌像は動脈相で高吸収域、門脈相と平衡相で相対的に低吸収域に描出される結節です。EOB MRIでは20分後に撮影する肝細胞相で高感度に肝細胞癌が検出され、早期肝細胞癌の発見に有力な方法です。また超音波造影剤ソナゾイドを用いた造影超音波でも後期像(クッパー細胞相)で高感度に肝細胞癌を検出することができます。

③腫瘍マーカー
肝細胞癌の腫瘍マーカーとしてAFP、PIVKA-Ⅱ、AFP-L3分画があります。1-2か月毎に腫瘍マーカーを測定すべきとの意見もあります。 また2種類以上の腫瘍マーカーを組み合わせることにより感度の上昇が得られます。AFPの持続的な上昇あるいは200ng/mL以上の上昇、PIVKA-IIの40mAU/mL以上の上昇、AFP-L3分画の15%以上の上昇は肝細胞癌の存在を示唆します。しかし、腫瘍マーカーの感度は画像診断よりも低いため、腫瘍マーカー単独でのスクリーニングでは不十分で、超音波などの画像診断と併用して用いることが重要です。

④核酸アナログ投与中のB型慢性肝炎・肝硬変におけるAFP
AFPは特異度が低く偽陽性率が高く、肝癌がなくても陽性になることが多いことが知られています。しかし核酸アナログを投与しているB型慢性肝炎・肝硬変症例のほとんどでAFPは10ng/mL以下に低下しており、偽陽性率は著明に低下し特異度が上昇します。自験例の検討ではカットオフ値10ng/mLでの特異度は97.3%でした。(Kobashi H、 et al. Hepatology Research 2011;41(5):405-16.)したがって核酸アナログを投与中の症例でAFPが10ng/mLを超えて上昇を続けた場合には肝細胞癌が潜在する可能性が高く、画像診断などで精査を進めることで早期発見につながると考えられます。

なお 日本肝臓学会肝癌診療ガイドライン2017年版に肝細胞癌のサーベイランス・診断アルゴリズムが示されており、参考になります。

(3) 治療方針

肝細胞癌の多くは肝硬変などを背景に発生するため、肝細胞癌の症例は しばしば肝予備能低下を伴います。また肝細胞癌は同時性または異時性に多発しやすいことが知られています。これらの特徴を踏まえて、各症例の腫瘍因子と肝予備能を評価した上で治療方針を選択することが重要です。
肝細胞癌の治療法として以下のものが挙げられます。
(1)肝切除術
(2)局所療法
1)経皮的ラジオ波焼灼療法
2) 経皮的マイクロ波凝固療法
3) 経皮的エタノール注入療法
(3) 肝動脈化学塞栓療法(TACE)
(4) 肝動注化学療法(HAIC)
(5) 分子標的薬(ソラフェニブ、レンバチニブ、レゴラフェニブ、ラムシルマブ)
(6) 肝移植
(7) 放射線療法: 外部照射、定位放射線治療、粒子線療法
肝細胞癌の腫瘍側因子(大きさ、個数、形態、存在部位、Stage、脈管侵襲の有無)と宿主側因子(肝予備能)を総合的に評価したうえで最適の治療法を選択します。治療法の選択に際して、肝癌診療ガイドラインが参考になります。(日本肝臓学会肝癌診療ガイドライン2017年版 )

(4) 治療の実際

主たる内科的な肝細胞癌の治療について説明します。

①経皮的ラジオ波焼灼療法(RFA)

超音波で腫瘍を描出し、局所麻酔を行ったうえで経皮的にラジオ波針を腫瘍に穿刺し、通電して熱凝固します。原則として腫瘍径3cm以下、個数3個以内、肝予備能Child-Pugh分類AまたはB、出血傾向や腹水がない場合が適応となりますが、個々の症例の条件によって適応を拡大する場合もあります。発生部位によっては人工胸水・人工腹水など作成して、より安全確実に治療できるようにします。

②肝動脈化学塞栓療法 (TACE)

局所麻酔下に大腿動脈を穿刺して腹部大動脈から腹腔動脈、上腸間膜動脈、肝動脈などへカテーテルを挿入し、血管造影を行います。CTを併用することもあります。肝細胞癌への栄養血管を確認し、マイクロカテーテルを選択的に挿入し、油性造影剤と抗腫瘍剤の懸濁液、続いてゼラチンスポンジ細片を栄養血管に注入して塞栓を行います。ゼラチンスポンジの代わりに球状塞栓物質(マイクロスフィア)を用いることもあります。繰り返して施行することが可能です。

③肝動注化学療法
肝動脈カテーテルから抗腫瘍薬を注入する治療法です。カテーテル近位部につないだ穿刺器具(リザーバーまたはポートと呼びます)を皮下に留置して、薬剤を反復的・持続的に注入することもあります。肝予備能Child-Pugh分類AまたはBで、TACE不応例や、門脈腫瘍栓合併などでTACE不適応例などが適応となります。

④ 分子標的治療薬
切除不能例・局所治療不能例・TACE不応例などで、肝予備能が保たれた症例が適応となります。一次治療薬としてソラフェニブ、レンバチニブ、ラムシルマブがあります。またソラフェニブ後の二次治療薬としてレゴラフェニブがあります。