1.診療科について

診療内容

診療内容

7名の常勤産婦人科医(うち6名は日本産科婦人科学会専門医)と1名の非常勤医で365日通常産婦人科医療に加え、地域周産期医療センターとして産科救急および3次救命センターとして婦人科救急に対応しています。

医師のご紹介

外来診察表

当科の紹介

産科領域

正常妊娠・正常分娩に加えて、地域周産期医療センターとして合併症妊娠(糖尿病、高血圧、気管支喘息、甲状腺疾患など)・前置胎盤合併妊娠・子宮内胎児発育制限・産後大量出血など様々な疾患に対して必要に応じて各科(小児科NICU・内科・麻酔科・放射線科など)と連携し対応を行っています。
また助産師による外来指導・退院後電話訪問・乳房外来なども充実させ妊婦さんの要望に対応しています。

当院での出産について 詳しくはこちら

※当院では、助産師による母乳・育児相談外来も行っております。

婦人科領域

子宮筋腫・卵巣嚢腫といった良性疾患に対しての手術・薬物療法から子宮頸癌、体癌・卵巣癌などの悪性疾患への手術・化学療法・放射線治療、急性腹症(子宮外妊娠・卵巣出血・卵巣嚢腫茎捻転など)、更年期障害(骨粗鬆症を含む)・内分泌疾患(月経不順・無月経・機能性出血など)不妊症(体外受精は行っていません)・予防医学として子宮頸がんワクチン投与と婦人科領域全般に女性特有の疾患に対して診療を行っています。手術が必要な方には、侵襲の少ない膣式手術・腹腔鏡下手術も積極的に施行しています。

2.主な疾患と治療法

婦人科のがん

婦人科での代表的ながんは、子宮にできる子宮がんと卵巣にできる卵巣がんです。さらに子宮がんは発生部位によって、子宮を支えている場所である子宮頸部に発生する子宮頸がんと、胎児を育てる場所である子宮体部に発生する子宮体がんとに分けられます。これらの婦人科がんはそれぞれ特徴が異なり、治療法も違います。ここでは、まず婦人科がんに共通のことがらについてお話をしてから、それぞれのがんについて見ていきましょう。

他のがんにも言えることですが、がんの治療法は大きく分けて局所治療と全身治療に分けられます。局所療法とは、その名のとおりねらった部位だけを治療する方法ですが、これには手術療法と放射線療法があてはまります。一方、全身療法とは、これもまた文字通りに全身を対象とした治療法で、抗がん剤を用います。そして抗がん剤による治療を化学療法といいます。手術や放射線の治療は強力ですけれどもあくまで限られた範囲のがんを攻撃する時にだけ威力を発揮するのです。がんが広範囲に拡がっているときのように手術で取りきれない場合には、化学療法が頼りです。婦人科では、これらの治療法を使い分けて、患者さんと医師・看護師・薬剤師などの職員とが力を合わせて癌と闘っていくわけです。

局所療法
  • 手術
  • 放射線治療
全身療法
  • 化学療法

また、全ての治療には何らかの副作用があり得ます。しかし副作用が生じても体力や体の機能が回復する様に治療内容が計画されます。例えば、化学療法によって血液中の白血球の数が減少し感染症にかかりやすくなってしまうことがありますが、いろいろな薬剤を用いて回復するようにします。そしてちゃんと回復したことを確認してから次の治療が始まるのです。ところが、体の機能が回復しなければ、その治療はもうできません。このように化学療法も放射線療法も、副作用は出現するけれど、体の機能はいずれ元に戻るはずと想定された治療量と方法とが決められています。手術でも、安全性を重視して切除範囲が決められます。

婦人科臓器である子宮と卵巣は、女性にとって女性らしさを意識させる臓器であり、また子供を産み子孫を残す臓器であり、とても重要な役目を持っています。もし、患者さんがどうしても将来子供を産みたいと思ったり、病気が見つかった時に妊娠中だったりすれば、できるだけ子宮や卵巣を残す治療法を検討します。また、がんが初期の場合にも子宮や卵巣を残すように配慮しています。しかし、一方で高齢の患者さんやがんが拡がった進行がんの患者さんでは子宮や卵巣を全てとりのぞくことが望ましいこともしばしばです。特に進行がんの患者さんでは、子宮や卵巣の全摘出が必要となることがよくあります。こういった進行した婦人科がんの場合、子宮と卵巣は生きていくために必要な臓器ではありませんから、徹底的に治療しやすいという特徴があります。そこで、婦人科では手術・放射線・化学療法を組み合わせ、いろいろな方法で駆使して、そして患者さんの希望を考慮しながら治療をします。

さらに加えれば、このように患者さんの希望を考慮しながら治療をすることが大切だと考えていますので、患者さんに納得してもらえる治療をするようにしています。このため婦人科では原則として患者さんにがんであることは告知しています。実際、副作用や後遺症のあるような大手術・放射線・化学療法をすることは、患者さん御本人が病状を把握して治療内容を納得されておくことは必要です。こういった治療を支えるため、病棟の看護師による看護の方法の改善を繰り返し向上をめざしています。

それでは、以下にそれぞれの疾患について述べましょう。ただしあくまで一般的、標準的な内容です。それぞれの患者さんに特有の状態があるでしょうから、あてはまらないこともあるでしょう。疑問があれば、やはり主治医の先生から説明を受けるようにしてください。

また、理解を容易にするため、進行期分類などはあえて簡略化し、場合によってはかなり割愛したところもありますので、ご了承ください。

子宮頸がん

症状

40才から50才にかけての患者さんが多いがんです。しかし、20才代でも70才代でも見られます。初期の子宮頸がんは全く症状がありません。定期的にがん検診をする管理方法が最もよいといえます。原則としては、年に1回か2回の検診が目安です。
少し、がんが進んだ場合には、出血が最もよくある症状です。痛みを伴うことはあまりありませんが、がんが広がってくると痛みが下腹部や腰部に出てきます。

原因

子宮頸がんの原因のほとんどは、ヒトパピローマウイルス(human papiloma virus; HPV)であると言われています。このウイルスが子宮頸部の細胞には

入り込みやすい性質をもっています。そしてこのウイルスが子宮頸部の細胞に入り込むと、細胞がどんどん増殖していくようになります。こうして子宮頸がんが発生すると考えられています。このウイルスは性交渉によって感染するとされています。ちなみに、男性から移ってくるウイルスではありますが、男性の性器にがんを発生されることはまず無いようです。
また、初めての性交渉が15才未満であるとか、愛煙家は子宮頸癌になりやすいという調査結果が出ています。

進行期

子宮頸がんが発生する前には、まず前がん病変というべき「異型上皮」という状態になります。つまり、正常状態から異型上皮になり、そして異型上皮から子宮頸がんになるのです。異型上皮は子宮頸部表面の細胞だけに異常が出現している状態です。異常とはいっても、がんにはなっていません。この異型上皮はがんとしては取り扱わないことになっています。
次に、異型上皮が進むとついに「上皮内がん」という初期の子宮頸がんになります。進行期0期と表現されることもあります。がん細胞が出来てしまっていますが、子宮頸部表面の細胞だけの異常です。からだの奥には入り込んではいません。
そして、がん細胞が頚部の表面にとどまらず、内部に入っていくと浸潤がんと呼ばれます。表面の拡がり具合も重要ですが、この入り込んでいく深さは特に重要な意味があります。顕微鏡で見て深さが5mm以上あるかどうかで、治療法が変わってきます。次に、がんの拡がりぐらいを意味する進行期について簡単に書きましょう。厳密にはもっと詳しく分類されますので、個々の患者さんは担当医の医師にお尋ねになるとよいでしょう。

「子宮頸癌の進行期分類」

I期 病変が子宮頸部に限局しています。特に深さが5mm未満は Ia 期、5mm以上ならIb期と分類されます。
II期 病変が子宮頸部を越え、子宮から骨盤の骨に向かって拡がっています。
III期 病変が子宮頸部を越え、骨盤の骨に到達しています。あるいは膣の下の方まで病変があります。あるいは腎臓と膀胱をつなく尿管をふさいでしまって、少なくとも片方の腎臓に尿がたまり水腎症になっています。
IV期 病変が膀胱または直腸の粘膜をつきやぶっています。あるいは肺や肝臓や頚部のリンパ節などに病変が拡がっています。

さて、子宮頸がんの拡がりかたは、ほとんどリンパ管を通って転移するリンパ行性転移を示します。しかし子宮頸がんの進行期分類にはリンパ節転移の項目はありません。なお、静脈に入って転移する血行性転移という経路もありますが、まれです。

診断法

まず、普通の子宮頸癌検診というのは、内診の時に子宮膣部という子宮の出入り口の表面の粘膜を綿棒でこすり取ります。この操作はほとんど10秒以内に終了します。なお、この検査は集団検診や人間ドックでする婦人科癌検診と同じです。さてこの綿棒に付いたバラバラの細胞をすぐにガラス板にこすりつけ、特別な染色をします。特別な資格を持つ細胞診査士や病理医師が顕微鏡で見て、がんの可能性があるのかどうかを診断します。この検査を細胞診検査といいます。

子宮頸癌の細胞診

classI 正常
classII 炎症などによる変化あり。しかし悪性変化はなし
classIII 異型上皮を思わせる細胞あり
classIV 上皮内がんを思わせる細胞あり
classV 浸潤がんを思わせる細胞あり

この細胞診と、前に話した進行期とを混同しないように気をつけましょう。細胞診はあくまでがん細胞があるかどうかを見ていますし、進行期はがんが確定した後にがんの拡がり具合を見ています。

細胞診が正常でなければ、子宮膣部を拡大鏡で見て詳しく観察し、もっとも異常が強いと思われる部分を探し、その部位の組織をマッチの頭の大きさほど採取します。採取自体は一瞬で終わります。これを病理医師が診断し、がんかどうかの最終診断をします。これを組織診といいます。

がんがあると組織診で判断された場合、こんどは頚部への深さの拡がり具合を調べることになります。先ほど話したように、特に初期がんの場合5mm以上の深さがあるのかないのかを知ることが重要な情報です。このためには、子宮頸部を大きく切り取ってさらに組織診をしなければなりません。入院していただき、麻酔してから子宮頸部を円錐型に切除します。それでこの術式を子宮膣部円錐切除術といいます。当院では、術後の出血が少なくまた手術が短時間で終了するように超音波メスかレーザーメスを用いて切除しています。そして得られた病理結果により、深さと表面の長さの最終的な診断ができます。
なお、肉眼的に明らかながんが観察される場合、つまり明らかに5mm以上の深さをもっていることが診察でわかる場合には、子宮膣部円錐切除術は省略されます。

骨盤の骨に到達しているかどうかは、医師が肛門から指で診察して診断する方法がとられます。これを直腸診といいます。

さらなる病変の拡がりを調べるためにはいろいろな検査が必要です。膀胱粘膜への浸潤をみるためには膀胱鏡、水腎症の有無をみるためには腎臓からの尿の排泄の写真、リンパ節への転移を見るためにはX腺CT検査、肺への転移を見るためには胸部写真などをします。さらに病変部の縦・横方向の断面を見ることができ、直接病変部の評価ができるMRI検査もしています。

腫瘍マーカーと呼ばれる血中の数種類の物質を測定することがあります。採血するだけです。腫瘍マーカーは何十種類もありますが、その中で子宮頸がんに関連が高いといわれている物質の血中濃度を測定します。悪性でなくても異常値を示すことがあるので、医師による総合的な判断により、数値の意味を考えなければなりません。例えば、最もよく利用される子宮頸癌の腫瘍マーカーに「SCC抗原」という名前の物質がありますが、この物質は炎症でも異常値を示すことがよくあります。
また治療前に高値だった場合、手術にしろ放射線にしろ化学療法にしろ治療効果があればこの値は低下していきます。つまり治療効果の程度を推測するための目安として利用できることがあります。

治療

子宮頸がんの治療内容は、治療前に決定された進行期によって決まります。

0期(上皮内がん)

将来妊娠を希望される患者さんには円錐切除術をするだけにとどめます。子宮膣部円錐切除術だけならば子宮体部を残したままですから、妊娠が可能です。ただし子宮膣部円錐切除術の病理結果で、I 期以上の病変が見つかった場合はその程度により追加治療として子宮全摘を含めた治療が必要なことがあります。ただし妊娠を希望されたため、厳重な経過観察を続けることで子宮膣部円錐切除術だけで再発無く日常生活を送っている患者さんもいます。

Ia期(頚部の浸潤が5mm未満)

将来妊娠を希望される患者さんには円錐切除術をするだけにとどめます。しかし、妊娠を希望されない患者さんの場合には、より完全な治癒を目指して子宮を摘出します。このときの手術方法は子宮筋腫などの良性疾患での子宮摘出方法と同じです。腹式単純子宮全摘術といいます。この手術であれば日常生活に支障がでるような後遺症はまずありません。

Ib期(頚部の浸潤が5mm以上)、および II期

がんの塊は手術で切除できる範囲内にある状態です。したがってまず手術が基本です。しかし、骨盤壁のすぐ傍で切断するよう周辺を含めて子宮を卵巣と卵管を含めて摘出する必要があります。また、骨盤のリンパ節にも拡がっていることがしばしばあるため、この骨盤リンパ節も摘出します。この術式を広汎性子宮全摘術といいます。この手術は残念ながらある程度の後遺症や副作用がでることがあります。手術による出血のために輸血や特定生物由来製剤(蛋白質などのことです)の投与が必要となったり、排尿障害やリンパ浮腫などが出現することがあります。当院では最近は手術方法を改善し、こういった後遺症を減らすことができるようになりました。
病変が切除できたとはいえそれはあくまで肉眼的な話です。顕微鏡レベルでの転移はわかりません。これを放っておくといずれ再発するであろうことが推察されます。そこで、特にII 期の場合は術後に骨盤部に体外から放射線照射をしています。これは毎日少しずつ行い通常は25回に分けています。月から金まで週5回するので5週間かかります。白血球減少や下痢や下血などがおきることがあります。なおIb期とII期と共に、膣断端部に集中的に放射線の追加照射をしています。この照射のための装置は特殊なため、膣断端部については大学病院と連携して治療をしています。

III期

放射線による治療をします。まず骨盤部に体外から放射線照射をしています。これは前述と同じく毎日少しずつ行い通常は25回に分けています。月から金まで週5回するので5週間かかります。白血球減少や下痢や下血などがおきることがあります。
病変部の近くから放射線を集中的に照射するため、子宮腔内照射と呼ばれる方法を用います。この子宮腔内照射は通常3から4回に分割します。この照射のための装置は特殊なため、子宮腔内照射については大学病院と連携して治療をしています。
場合によっては、まず抗癌剤による化学療法を通常2から3ヶ月投与して病変部を小さくしておき、ついで広汎性子宮全摘術をするという治療法を選択することがあります。この方法はネオアジュバント化学療法と呼ばれ、時に有効です。ただし、化学療法が効くことが前提です。もし効かなければ放射線治療開始が2から3ヶ月遅れることになります。前もって効果が予測できればいいのですが、そのためのよい検査方法はありません。将来、確実に有効な化学療法が開発されればIII期の治療は変わってくるかもしれません。

IV期

広い範囲にがんが拡がっています。手術も放射線もいくら頑張っても局所療法なので完全な治癒は望めません。したがって全身療法である化学療法が原則です。白血球減少や脱毛や嘔吐など副作用があります。場合によっては局所療法も補助的に用いられることがあります。

成績

当院における予後

1989-1994 5年生存率 1995-2000 5年生存率
0期 100% 0期 100%
I期 93.2% I期 100%
II期 72.0% II期 62.9%
III期 75.0% III期 68.6%
IV期 50% IV期 33.3%

子宮体がん

症状

50才から60才にかけての患者さんが多いがんです。初期の子宮体がんは全く症状がありません。子宮体がんでは出血が最もよくみられる症状です。閉経後の出血がみられた場合は、必ず検査をしてがんかどうかを調べる必要があります。ただ、出血があるからといっても老人性膣炎などの良性疾患のことが多いですから、むやみに恐れる必要はありません。痛みを伴うことはあまりありませんが、がんが広がってくると痛みが下腹部や腰部に出てきます。 定期的ながん検診が最もよい早期発見の方法といえます。特に閉経後に注意が必要です。原則としては、年に1回か2回の検診が目安です。

原因

子宮体がんの原因はよくわかっていません。しかし主に卵巣からでるエストロゲンというホルモンが刺激するようです。エストロゲンが持続的に子宮内膜に働くとがん化することに関連があるようです。なお、子宮体がんは子宮内膜がんともいわれます。また、近年明らかに増加しています。
エストロゲンは卵巣以外にも、体の脂肪の中にある脂肪細胞で産生されます。したがって肥満傾向のある方はやせている方に比べると、エストロゲンがいつも多めです。ですから子宮体がんは肥満の方に多いのです。それから、高血圧や糖尿病状態にも関連が認められています。
また、卵巣から出るプロゲステロンというホルモンはエストロゲンとバランスをとってエストロゲンの働きを抑えるような作用があります。ところが閉経になるとプロゲステロンが無くなりますので、体の中の女性ホルモンは脂肪細胞で産生されるエストロゲンになってしまいます。ですから、閉経後に子宮体がんは生じやすくなります。
なお、子宮頸がんとは異なりウイルスは関与していないようです。それから分娩したことがない方は子宮体がんにはなりやすいといわれています。

進行期

「子宮体癌の術後進行期分類」
原則として、術後に進行期が決定されます。

I期 病変が子宮体部に限局しています
Ia期 内膜表面だけにがんが限局しています
Ib期 子宮筋層の1/2までの筋層への浸潤があります
Ic期 子宮筋層の1/2を越える筋層への浸潤があります
II期 病変が子宮体部を越え、下方に向かって拡がり子宮頸部にもあります
III期 がん細胞が卵巣や卵管や膣にまで拡がっているか、がん細胞が腹水の中に認められるか、下腹部に拡がっているか、リンパ節に拡がっている状態です
IV期 骨盤を越えて上腹部に拡がっています。肺や肝臓などに転移が見られたり、頚部や鼠径部のリンパ節などに病変が拡がっています。あるいは膀胱や直腸を突き破っています

さて、子宮体がんの拡がりかたには、以下の3通りがあります。

  1. 静脈に入って転移する(血行性転移)
  2. リンパ管を通って転移する(リンパ行性転移)
  3. 腹腔内に拡がる(腹膜播種性転移)

このような3通りの拡がりかたをふまえて進行期分類が作成されています。

診断法

まず、普通の子宮体癌検診というのは、内診の時に外子宮口という子宮の出入り口から細長い採取用の器具を子宮腔内に挿入し、子宮内膜表面の粘膜をこすり取ります。子宮口の広さや、子宮体部の位置の影響で検査の時に痛みを感じることがあります。なお、この検査は集団検診や人間ドックでの通常の婦人科がん検診とは違います。ちゃんと病院を受診して検査を受ける必要があります。この検査のときには、たまに痛みを感じることがあったり、検査の数日後に出血したりすることがあります。さてこの器具に付いたバラバラの細胞をすぐにガラス板にこすりつけ、特別な染色をします。特別な資格を持つ細胞診査士や病理医師が顕微鏡で見て、がんの可能性があるのかどうかを診断します。この検査を細胞診検査といいます。

細胞診が異常であった場合は、次に子宮鏡検査をします。子宮の内腔に内視鏡を挿入し病変部を観察します。当院ではファイバースコープを用いています。これにて病変部の表面の状態を見ることが出来ます。

続いて組織検査をします。麻酔をして、子宮体部から組織を少し掻き出して内膜を採取します。これを組織検査といいます。これによりがんかどうかが確定します。

さらなる病変の拡がりを調べるためにはいろいろな検査が必要です。リンパ節への転移を見るためにはX腺CT検査、肺への転移を見るためには胸部写真などをします。さらに病変部の縦・横方向の断面を見ることができ、子宮筋層への浸潤の程度や頚部への浸潤の有無を評価ができるMRI検査もします。

さらには進行期の項目を見ていただければわかるように、がん細胞が腹水の中に認められるかどうかを調べなければなりません。子宮体がんの進行期は手術後に決定されます。もっとも何らかの理由で手術ができない患者さんの場合には、別に臨床進行期分類があるのですがここでは省略します。さて、このように手術は治療でもありますが、同時に進行期を決定する検査の意味ももっています。

腫瘍マーカーと呼ばれる血中の数種類の物質を測定します。採血するだけです。腫瘍マーカーは何十種類もありますが、その中で子宮体がんに関連が比較的高いといわれている物質の血中濃度を測定します。ただし、悪性でなくても異常値を示すことがあるので注意が必要です。医師による総合的な判断により、悪性がどうかを考えなければなりません。特に子宮体癌ではあまり優れた腫瘍マーカーはありません。例えば、最もよく利用される子宮体がんの腫瘍マーカーに「CA-125」という名前の物質がありますが、この物質は月経痛がひどくなる病気の子宮内膜症という良性の病気でも異常値を示すことがよくあります。
また、治療前に高値だった場合は、手術にしろ化学療法にしろ治療効果があればこの値は低下していきます。つまり治療効果の程度を推測するための目安として利用できることがあります。

治療

子宮体がんの治療は、原則としてまず手術から始まります。手術をして術後進行期分類を決定し、それに応じて術後の追加治療をしていく、というのが基本的な考え方です。化学療法も効果がある薬が開発されてきていますが、子宮体癌では手術でがんを摘出することがとても重要です。
基本的な術式が概ね決まっています。まず子宮摘出の方法については、子宮頸部にまで病変が及んでいると言えるかどうかで異なります。多くの場合は子宮頸部には病変がないと術前に推定されるのですが、そうすると子宮筋腫などの良性疾患での子宮摘出方法と同じです。これを腹式単純子宮全摘術といいます。この手術であれば日常生活に支障がでるような後遺症はまずありません。ところが、子宮頸部に病変があると推定される場合には、子宮頸がんに準じて広汎性子宮全摘術を行います。子宮頸がんの手術の場合と同じように残念ながらある程度の後遺症や副作用がでることがあります。手術による出血のために輸血や特定生物由来製剤(蛋白質などのことです)の投与が必要となったり、排尿障害やリンパ浮腫などが出現することがあります。当院では最近は手術方法を改善し、こういった後遺症を減らすことができるようになりました。
次に卵巣と卵管は、時に転移が見られますから切除することが原則です。これを附属器摘出術といいます。さらに骨盤部と大動脈のリンパ節を原則的に郭清する必要があります。ただしリンパ節郭清については子宮摘出直後に子宮体部を切開し、筋層浸潤が1/2を越えるかどうかを調べます。1/2を越える時には骨盤部と大動脈周囲のリンパ節を郭清することになります。また筋層に浸潤がなければリンパ節の郭清はしていません。

基本術式

子宮全摘術+附属器摘出術+骨盤および大動脈リンパ節郭清術+大網切除術
例外・・・Ia期

この場合は、術前に組織診やMRI検査で、Ia 期であることが術前にほぼ確定しています。リンパ節をとることはありません。つまり子宮全摘術+附属器摘出術が術式です。

術後の治療

Ia期

子宮全摘術+附属器摘出術だけです。追加治療はありません。

Ib期

この場合は状況により追加治療をする場合もしない場合もあります。

Ic期以上

化学療法をします。状況によりますが3コースから6コースをすることが一般的です。腫瘍マーカーや残存腫瘍がある場合は、それらが正常域にはいってから追加で3コースすることを原則としています。化学療法での「1コース」というのは1回分の治療のことで、3から4週間かかります。1コースにおいては抗がん剤の投与は1日だけで、後の日々は副作用からの回復を待つ期間です。最近では1コースの抗がん剤の量を3回に分割し、同じ曜日だけに3週にわたって投与することも行なっています。この方法では1回あたりの副作用が少ないので、外来や短期入院(1~3日間)での化学療法ができるようになっています。つまり3週間は毎週1日ずつ抗癌剤を投与しますが、術後に落ち着いたら自宅から通院しながら化学療法を受けていただけます。ずっと入院し続ける必要はありません。入院であっても外来通院であっても、術後約3ヶ月から6ヶ月の加療となります。
現在は、「パクリタキセル+カルボプラチン」(+アドリアマイシン)(商品名「タキソール、パラプラチン」ピノルビン)、あるいは「ドセタキセル+カルボプラチン」(+アドリアマイシン)(商品名「タキソテール、パラプラチン」、ピノルビン)を第1選択としています。薬剤により多少の違いはありますが、主な副作用としては、白血球減少、貧血、血小板減少、脱毛、指のしびれ、むくみ、心・腎・肝障害、アレルギーなどがあります。

成績

当院における予後

1989-1994 5年生存率 1995-2000 5年生存率
0期 100% 0期 100%
I期 87.8% I期 84.3%
II期 33.3% II期 66.7%
III期 100% III期 81.8%
IV期 患者数0名 IV期 0.0%

卵巣がん

症状

卵巣がんは症状が出にくく、発見されたときには既に拡がってしまっていることが多い病気です。初期あるいはがんの大きさが比較的小さいときは症状はまずありません。症状として気づくのは、お腹が張った感じぐらいのものです。これを腹部膨満感といいます。最近急にお腹が出てきた感じの症状です。これは多くの場合は腹水がたまってきているために出てくる症状ですが、なかには10cm以上もあるがんの塊がお腹の中で大きくなって腹壁を体の中から押してくるための症状であることもあります。このようにお腹が大きくなっただけの場合は、食欲は普通のことが多いです。ただしかなり大きくなると食欲が落ちたり呼吸がしにくくなったり仰向けに寝ることが苦しくなってきます。
まれには、ニワトリの卵になったぐらいの大きさの卵巣がんが、根元からねじれて激痛を生じて発見されることもあります。

原因

はっきりした原因はわかっていません。卵巣を顕微鏡で調べると、将来ヒトとなるべき運命を持つ卵細胞のほかに、ホルモンを産生する細胞など多くの種類の細胞から構成されていることがわかります。
卵巣がんは卵巣を構成している細胞のいずれかから発生するのですが、それぞれの細胞にどのような刺激が加わるとがん細胞になっていくのかわかっていません。卵細胞は将来ヒトとなりうる基本の細胞ですから、卵細胞が異常になれば実にさまざまな種類の変化を示す可能性があることは想像がつくことと思います。実際、卵巣の病気の中には、腫瘍の中に髪の毛や神経や歯や骨などが造られる種類の卵巣腫瘍があります。実に多種多様な腫瘍なのです。
また、卵巣がんは先進国に多いといわれており、発ガン物質などの環境因子も原因の一つと考えられています。日本でも近年増加しています。

卵巣がんの拡がりかたには、以下の3通りがあります。

  • 静脈に入って転移する(血行性転移)
  • リンパ管を通って転移する(リンパ行性転移)
  • 腹腔内に拡がる(腹膜播種性転移)

このような3通りの拡がりかたをふまえて以下のような進行期分類が作成されています。

卵巣癌の進行期分類卵巣癌の進行期分類

原則として、術後に進行期が決定されます。

I期 病変が卵巣に限局しています
II期 病変が子宮や卵管などに拡がっています
III期 病変がリンパ節や肝臓表面や腸管などの腹部臓器に拡がっています
IV期 病変が肝臓内部や肺や脳や頚部リンパ節などに拡がっています

実際に卵巣がんが見つかった場合は、III 期になっていることがしばしばあります。特に腸管の表面など腹腔内に拡がっていることがよくあります。

診断法

卵巣がんの診断でとても大事なことは、前もってがんかどうかの確定診断はできないということです。一般に、がんかどうかは組織を顕微鏡でみて診断します。ところが卵巣は骨盤の中にあり、卵巣の組織を採って調べることができません。ただ、手術だけが組織採取可能な手段です。つまり基本的に卵巣の腫瘍は、手術しなければ良性なのか悪性なのか断定できません。
この点は、子宮頸がんや子宮体がんあるいは胃がんなどと根本的に違います。子宮頸がんや子宮体がんは手術に先立って、がんであることが確定できます。しかし、卵巣がんは違います。手術が、診断でもあり治療でもあります。

内診では、卵巣の腫大を調べます。また卵巣と子宮や骨盤壁などとの間に癒着があるかどうかを調べます。がんといえるかどうかは内診だけでは判断は無理ですが、手術ができそうかどうか、またどのような手術を予定すべきかといった判断をするためにはとても重要です。

経腹的あるいは経膣的に超音波断層法による検査をします。この検査も癒着の程度の評価や手術の計画の判断をします。また、ある程度がんのタイプを推定することができます。

腫瘍マーカーと呼ばれる血中の数種類の物質を測定します。採血するだけです。腫瘍マーカーは何十種類もあります。その中で卵巣がんに関連が高いといわれている物質の血中濃度を測定します。もし、正常値より高ければ悪性の可能性が高まると考えられます。
ただし、悪性でなくても異常値を示すことがあるので注意が必要です。医師による総合的な判断により、悪性がどうかを考えなければなりません。例えば、最もよく利用される卵巣がんの腫瘍マーカーに「CA-125」という名前の物質がありますが、この物質は月経痛がひどくなる病気の子宮内膜症という良性の病気でも異常値を示すことがよくあります。
また、もし本当に卵巣癌だったことがわかった患者さんで治療前に高値だった場合は、手術にしろ化学療法にしろ治療効果があればこの値は低下していきます。つまり治療効果の程度を推測するための目安として利用できることがあります。

病変の拡がりを調べるためにはいろいろな検査が必要です。リンパ節への転移を見るためにはX線CT検査、肺への転移を見るためには胸部写真などをします。さらに病変部の縦・横方向の断面を見ることができ、悪性か良性かを評価できるMRI検査もします。特に病変部の血流量の変化を用いて悪性かどうかを診断するダイナミックMRI検査も行います。

さらには、進行期分類に関連していますが、がん細胞が腹水の中に認められるかどうかとか、腹腔内のがん細胞の塊の大きさを調べることなどが診断と治療上重要です。先ほども述べましたが、卵巣がんの進行期は手術後に決定されます。手術は治療でもありますが、がんかどうかを診断し、同時に進行期を決定する検査の意味ももっています。
ただし、脳に転移がみられるなど、明らかに進んでしまった卵巣がんと考えられた場合や、全身状態がよくないため体力がとても低下している場合などはあえて手術はしないことがあります。

なお、卵巣がんには定期的に検診をしていても見つかりにくい種類があるといわれています。でも、年に1回から2回の婦人科診察でなるべく卵巣がんの早期発見を目指して外来受診をしておくことが望まれます。

さらには、卵巣腫瘍には悪性とはいえない「境界悪性」という種類があります。細胞はがん細胞とそっくりなのですが、血管内など体の中に入り込んでいきにくいという特徴があります。卵巣癌ではありませんが、でも良性でもないのです。治療は卵巣がんよりはずっと軽くて済みます。化学療法をしないこともしばしばです。ここでは「境界悪性型卵巣腫瘍」については割愛します。

治療

卵巣がんの治療は、原則としてまず手術から始まります。手術をしてがんかどうかを確定し、ついで進行期を決定し、それに応じて術後の追加治療をしていく、というのが基本的な考え方です。卵巣がんは化学療法が比較的効果のみられる病気と考えられています。そこで手術と化学療法のさまざまな組み合わせで治療を組み立てます。もちろん卵巣がんでも手術でがんを摘出することがとても重要です。
手術については、基本的な術式が概ね決まっています。手術に際しては、通常は迅速病理組織診という検査をします。これは全身麻酔のもとで開腹して、腹水の細胞診検査をしたあとで、卵巣腫瘍の一部または全部を採取して病理医に提出し直ちに良性か悪性かの診断をします。通常は約30分から1時間で結果が出ます。しかしみるからにがんの塊が腹腔内に散らばっているような場合などのように、悪性であることが肉眼的に明らかな時はこの迅速病理検査は省略します。
卵巣がんであると判断された場合は、できるだけ腫瘍部分を摘出します。通常は卵巣と卵管は右も左も摘出します。子宮摘出の方法については、子宮筋腫などの良性疾患での子宮摘出方法と同じで、腹式単純子宮全摘術といいます。この手術では日常生活に支障がでるような術後の後遺症はまずありません。このように子宮と卵巣と卵管は全て摘出するのが原則です。さらに、がんが腸に浸潤しているために腸からがんが分離できないときなどは、消化器外科医の協力のもとに腸の部分切除をして癌と一塊として切除します。あるいは、片方の卵巣だけに癌があり他の部位は全く正常の場合(これは進行期がIa期に相当します)には、病的な卵巣だけを摘出します。こうすれば将来妊娠や出産も可能です。
次に、がんが拡がっていく通り道を遮断するための手術をします。前に述べましたが、卵巣がんでは、静脈に入って転移する(血行性転移)とリンパ管を通って転移する(リンパ行性転移)経路があるので、術式としては卵巣静脈の切除と骨盤リンパ節摘出と大動脈リンパ節摘出をしています。
合併症や後遺症としては、手術による出血のために輸血や特別生物由来製剤(蛋白質などのことです)の投与が必要となったり、リンパ浮腫などが出現することがあります。当院では最近は手術方法を改善し、リンパ浮腫などの後遺症を減らすことができるようになりました。

基本術式

子宮全摘術+附属器摘出術+骨盤および大動脈リンパ節郭清術+大網切除術
例外・・・Ia期

術中の腹水の細胞診と迅速組織診の結果でIa期であることが確定した場合は、病変のある卵巣摘出だけを行います。リンパ節をとることはありません。化学療法もしません。

術後の治療

Ia期

病変側の卵巣摘出術 だけです。追加治療はありません

Ib期

化学療法をします。状況によりますが3コースから6コースをすることが一般的です。腫瘍マーカーや残存腫瘍がある場合は、それらが正常域にはいってから追加で3コースすることを原則としています。化学療法での「1コース」というのは1回分の治療のことで、3から4週間かかります。1コースにおいては抗がん剤の投与は1日だけで、後の日々は副作用からの回復を待つ期間です。最近では1コースの抗がん剤の量を3回に分割し、同じ曜日だけに3週にわたって投与することも行なっています。この方法では1回あたりの副作用が少ないので、外来や短期入院(1~3日間)での化学療法ができるようになっています。つまり3週間は毎週1日ずつ抗がん剤を投与しますが、術後に落ち着いたら自宅から通院しながら化学療法を受けていただけます。ずっと入院し続ける必要はありません。入院であっても外来通院であっても、術後約3ヶ月から6ヶ月の加療となります。
現在は、「パクリタキセル+カルボプラチン」(商品名タキソール、パラプラチン)、あるいは「ドセタキセル+カルボプラチン」(商品名タキソテール、パラプラチン)を第1選択としています。薬剤により多少の違いはありますが、主な副作用としては、白血球減少、貧血、血小板減少、脱毛、指のしびれ、むくみ、心・腎・肝障害、アレルギーなどがあります。

以上が、治療方針の原則です。しかし、まだ重要なことがあります。卵巣がんにおいては、必ず手術で完全に腫瘍を摘出できるとは限りません。米粒大のがん塊が腹腔内一面に散らばっているような場合や、骨盤壁に浸潤している場合など完全な摘出は困難です。つまり、手術でがんがとりきれないときは、いったん化学療法をして、あらためて再度手術をすることがあります。言い換えれば、卵巣がんでは手術療法と化学療法とを何度か組み合わせて治療することがあります。手術して化学療法して、再度手術する、とかするわけです。これは化学療法は卵巣がんに比較的効果があるという特徴があるからです。腫瘍を小さくしてより安全に完全摘出ができるように化学療法を用いることができます。
ちょっと専門的になりますが卵巣がんの化学療法についてもう少しだけ述べましょう。とてもとりきれないと思える明らかな卵巣がんに対して試験開腹術で卵巣がんであることを確認した後、化学療法でまず腫瘍を小さくしてから再度手術をして卵巣と子宮を摘出する場合の化学療法を「寛解導入化学療法」といいます。また、腫瘍が肉眼的に完全に摘出された後、残存しているかもしれない微少ながん細胞に対して化学療法を行う場合には「補助化学療法」といいます。また、根治手術率の向上を目的とした手術前に施行される化学療法を「術前化学療法」といいます。さらに、寛解導入化学療法によって得られた寛解を維持するための化学療法を「維持化学療法」といいます。このように卵巣がんでは手術と化学療法とを組み合わせています。

成績

当院における予後

1989-1994 5年生存率 1995-2000 5年生存率
I期 74.6% I期 96.8%
II期 0.0% II期 100%
III期 18.5% III期 45.5%
IV期 0.0% IV期 19.0%