診療内容

呼吸器外科

当科の呼吸器外科手術症例数は年間150例前後(そのうち肺がんは80例前後)で呼吸器外科専門医合同委員会の専門研修連携施設として,多くの呼吸器外科手術を行っています。約半数が肺がんの根治手術で、その他に気胸、縦隔腫瘍、良性肺疾患、多汗症などがあります。そのほとんどに侵襲の少ない胸腔手術を導入しています。

医師のご紹介

外来診察表

胸腔鏡下肺葉・区域切除1500例達成

 1995年(平成7年)6月30日に岡山赤十字病院で肺アスペルギローマに対し第1例目の胸腔鏡補助下左下葉切除を施行して以来,2014年(平成26年)3月に1000例目の胸腔鏡下肺葉・区域切除(解剖学的肺切除)を達成、2020年(令和2年)2月に1500例を達成することができました。当初は胸腔鏡補助下(assist VATS)で施行していましたが,2009年から完全胸腔鏡下(complete VATS)に移行し,以降は主に完全胸腔鏡下での手術を施行しております。

肺癌に対する外科治療

1. 肺癌の治療戦略

 ひとくちに肺癌といっても様々なタイプの癌があります。最も多いのは腺癌で,次に多いのが扁平上皮癌です。その他にも小細胞癌,大細胞癌,腺扁平上皮癌,腺様嚢胞癌,カルチノイド,粘表皮癌,癌肉腫などがあります。そのうち小細胞癌だけは別格に扱われますが,その他の組織型をまとめて非小細胞肺癌と呼んでいます。小細胞癌は生物学的な悪性度が高く,発見時には進行癌であることが多いため,よほどの早期で発見されない限り手術の対象になることはありません。その代わり,小細胞癌は抗癌剤と放射線治療が非常によく効きますので,これらを併用するのが一般的です。その反対に悪性度は小細胞肺癌ほどではありませんが,抗癌剤や放射線治療が効きにくいのが非小細胞肺癌です。最近は良い抗癌剤が開発されてきていますし,放射線治療の他に免疫療法,遺伝子治療もありますが,現在でも非小細胞肺癌の治療の第一選択は手術で癌病巣を完全に切除すること(根治手術といいます)です。非小細胞肺癌に対する抗癌剤,放射線,免疫,遺伝子治療は手術をしても治しきれない段階まで進行した場合に行う補助的な治療法と一般的に考えられています。

 癌の転移の仕方には癌細胞が血流に乗って全身のどこにでも転移してくる血行性転移(遠隔転移ともいいます)と,リンパ液の流れに乗ってリンパ節に転移するリンパ行性転移(リンパ節転移)があります。どんな癌でもその癌の進行度(医学用語では病期といいます)を目安にして治療方針を決定します。レントゲンやCT,PETなどの画像を参考にして推測された病期を特に『臨床病期』と呼び,これによって治療方針を決定しますが,これはあくまでも画像から導かれたもので100%正確なものではありません。癌細胞の一つ一つは顕微鏡でしか見えないほど小さなものなので,小さな転移があってもレントゲンやCT,PETには現れないことがあるからです。
 肺癌の病期はI,II,III,IVの4つの時期に分かれます。他にもいろんな因子が絡んできますが,大まかに言えばI期は血行性,リンパ行性いずれの転移もない時期,IV期はすでに血行性転移を来している時期です。II,III期とは血行性転移はないもののリンパ節転移がある時期で,小範囲のリンパ節転移をII期,広範囲なリンパ節転移や隣接臓器浸潤をIII期とします。手術で完全に癌が治る可能性があるのはI,II期とIII期の一部です。

2. 手術適応

 主に臨床病期I,II期が手術療法の対象となります。臨床病期III期に対しては症例によって様々な選択肢があり,最初から手術を選択する場合,まず化学療法(場合によっては放射線治療を併用)を行って病巣を小さくしてから手術する場合,手術をして術後に化学療法を追加する場合(術後補助化学療法と言います)の3通りがあります。臨床病期IV期(遠隔転移を伴う)は基本的には手術の対象とはなりませんが,単発性の遠隔転移の場合(例えば単発性脳転移,単発性副腎転移)は,転移巣を切除することを条件に根治手術を行うことがあります。
 手術をして摘出した臓器を顕微鏡で調べ,病理組織学的に判定された最終的な病期を『病理病期』と言います。『臨床病期』と『病理病期』は食い違うことがありますが,『病理病期』が最終的な癌の進行度と判断されます。

3.手術術式

レントゲン写真で見ると肺は右左一つずつのように見えますが,
実際は右が上葉,中葉,下葉,左が上葉,下葉の
合計5つの肺葉に分かれています。(右図)

手術術式

 肺癌に対する標準的な根治手術は癌が発生した肺葉ごと切除し,その周囲のリンパ節を郭清するのが一般的です。しかし,最近は画像診断の進歩により,ごく早期の肺癌が発見されるようになり,根治手術の方法も症例により選択するようになってきています。場合によっては癌の病巣のみを切除(部分切除)したり,区域切除という肺葉よりも小さな範囲の切除で済む場合もあります。
 肺癌の根治手術は,以前はほとんどが標準開胸といって,側胸部に20-30cmの大きな皮膚切開をおいて肋骨の隙間を大きく開いて,外科医の手を直接胸の中に入れて手術を行う方法が採られていました。しかし,この開胸法では術後の痛みが強いのが欠点でした。しかし1990年代前半から,医療光学器械の進歩によって胸腔鏡(内視鏡の一種)を用いて小さな手術創で肋骨を大きく開くことなく肺癌の根治手術を行う胸腔鏡下肺葉・区域切除術(VATSといいます)が行われるようになり,当科では1995年7月からこの手術を積極的に取り入れ,現在までに1500例を超える症例に行っています(2020年3月現在)。

4. 胸腔鏡下肺葉・区域切除術(VATS)の危険性について

 肺癌の手術では肺動脈,肺静脈という心臓から直接肺に流入する血管を結紮・切離して,切除しようとする肺を心臓から分離しなければなりません。
 この手技が非常に繊細で,標準開胸でもあっても危険を伴います。標準開胸では胸腔内に術者の手が入るので直接臓器に触れながら手術ができますが,胸腔鏡下手術では術者の手で臓器に触ることはでず,長い手術道具を使って手術を行います。このような理由から一般的に胸腔鏡手術は標準開胸より危険性が高い手術といえます。
 しかし,当科では胸腔鏡下手術に慣れた呼吸器外科医が手術を行っておりますので,安心して手術を受けていただけると思います。

5. 胸腔鏡下手術から標準開胸への術式変更について

 高度の胸腔内癒着や不測の術中出血など,胸腔鏡下に手術が続行不可能になった場合は,患者さんの安全を第一に考えて標準開胸に変更させていただくことがあります。

6. 在院期間について

在院日数は2010〜2014年の5年間で平均10.2日,中央値は8日でした。
2014年の単年では平均8.7日,中央値は6日でした。

自然気胸

1. 自然気胸とは

 「気胸」という病気は、聞きなれない病気かと思います。 何らかの原因で肺に穴があき、空気が漏れて、あたかもタイヤのチューブがしぼんでしまったような状態を言います。 簡単にいえば、肺のパンクと考えれば良いでしょう。 「気胸」には様々な原因があります。 例えば、交通事故で肋骨を骨折し、その骨片が肺に刺さったり刃物で胸を刺されて起こる気胸を外傷的気胸といいます。 その反対に、外的な誘引なく起こる気胸を自然気胸と言います。 自然気胸にも肺気腫、塵肺など肺に器質的な病気を持っている方が起こす続発性自然気胸と、体質的に肺の表面を覆っている膜が浮き上がって泡状の病変(ブラ、ブレブと呼びます)を持った方が起こす原発性自然気胸があります。

2. 原発性自然気胸の原因

自然気胸
 肺の表面からブラ、ブレブと呼ばれる泡状ないしは風船状の病変があり(右図) これがパンクして空気が漏れて肺が縮むのが自然気胸です。 この病変は誰もが持っているものではなく、体質的にできやすい人(長身でやせ型の男性に多い)にできるもので、15歳頃からでき始めて25歳ごろまでにできあがると考えられています。 この病変は肺尖部(肺のてっぺんの部分)に好発しますが、その他の部分にもできることがあります。

3. 自然気胸の治療法は?

 高齢者の続発性自然気胸は原則的に手術の対象ではなく、癒着療法が 行なわれます。しかし空気漏れが長期になる場合は手術療法を 考慮しなければならない場合もあります。 原発性自然気胸では初発でも50~60%、2度目で70~80%、 3度目で90%以上再発すると言われています。

手術の適応は以下のように分かれます。

a).手術しなければならない場合(絶対適応)

  • (1)多量の胸腔内出血を伴う場合(血気胸)
  • (2)両側同時気胸
  • (3)脱気療法しても多量の空気漏れで肺の拡張が得られない場合

b)手術を考慮したほうがよい場合(相対適応)

  • (1)再発を繰り返す場合
  • (2)空気漏れが長引く場合(4日以上が目安)
  • (3)飛行機のパイロット、潜水夫など、気胸が致命的になりうる職業
  • (4)海外旅行を控えている人、妊娠・出産を控えた女性など

 最近は胸腔鏡手術が盛んになり、以前の開胸手術と比べて 手術の傷も小さく、痛みも少ないことから、はじめて気胸を 起こした方でも患者さんの希望があれば手術を行なっています。

5. 手術方法

 自然気胸の手術は全身麻酔で行います。 手術は下図のように側胸部に3ヵ所1~2cmの皮膚切開で行ないます。 その切開からポートと呼ばれている筒状のものを肋骨の隙間に留置し、これから胸腔鏡を胸腔内に入れて中の様子をテレビ画面で見ながら、あとの2個のポートから手術用具を入れて手術します。

自然気胸

自然気胸
手術は気胸の原因となる病変(ブラ、ブレブ)の集族部位は切除し、 単発性のものは結紮または焼灼することもあります。

6. 手術時間など

自然気胸
 胸腔鏡の手術は手術側の肺を完全に空気が入らない状態にしないと 施行できません。 また胸部の手術は生命に直結した肺、心臓が関係した手術でもあり、 術中の異常を早期に発見するために各種のモニター類を装着する必要があります。 そのための麻酔の準備に時間がかかるため、 手術室に入ってから手術が実際に始まるまでに約1時間かかります。 手術は普通1時間から2時間かかります。 しかし、癒着があると剥離に時間を要し、手術時間がそれ以上に 長くなります。

7. 癒着がある場合の対処

 肺が胸壁に癒着していると、十分な視野が得られず、胸腔鏡下の手術は不可能です。 癒着が軽度の場合は胸腔鏡下に癒着を剥離してから行うことも可能ですが、癒着が高度の場合はそれもできないことになります。 その場合、小開胸(約10cm程度の皮膚切開を追加して肋骨の隙間を大きく開く)を追加しなければならないこともあります。

8. 術後の経過

自然気胸

 術後は胸腔ドレーンというチューブが胸の中に入っています。 このチューブは胸腔内を生理的な陰圧に保つために、 低圧持続吸引器という吸引ポンプに接続されています。 肺の剥離面や切除断端から空気漏れがある間は このチューブは抜去できません。 ほとんどの患者さんは手術の翌日に抜去可能となります。 しかし術後に空気漏れのある方は空気漏れが完全に止まるまで 胸腔ドレーンが抜去できないことがあります。

 手術終了後は回復室で約1時間麻酔を覚まして病室に帰ります。 午前中の手術の場合夕食から、午後の手術の場合翌日の朝から 食事摂取が可能です。通常、胸腔ドレーンがはずれて翌日に 退院です。抜糸は1週間後外来通院で行います。

9. 手術の主な合併症について

a).出血

 手術による出血は極少量で、輸血の必要はまずありません。 万一、コントロール不能な出血が起こった場合は、操作孔を増やすか、小開胸で対処できます。

b).肺からの空気漏れ

 剥離面や切除断端から空気が漏れて、胸腔ドレーン抜去後でも 肺が縮むことがあります。 このような場合は胸腔内に再び胸腔ドレーンを挿入して 持続脱気療法を行なえば治まります。 しかし、長期に空気漏れが続く場合は胸腔ドレーンから癒着剤を 胸腔内に散布することがあります。

c).軽度の前胸部の皮膚のしびれ感

 胸腔鏡手術は肋骨と肋骨の狭い隙間にカメラを入れて 操作するため、その部分の肋間神経が圧迫されて一時的に 皮膚がしびれた感じが残ることがあります。 肋間神経は切断されているわけでなく、一過性で、 大部分の方はしびれは1~2ヶ月で消失します。

10. 原発性自然気胸に関するよくある質問 Q & A

Q1:原発性自然気胸の治療薬はあるのですか?
A:原発性自然気胸の原因はブラ・ブレブの破裂が原因であることが知られていますが、ブラ・ブレブがなぜできるのかは、まだ分かっていません。 従って、今のところ根本的にブラ、ブレブを発生させない、あるいは縮小させる治療薬はありません。 自然気胸が起こったら、脱気療法(軽度の場合は安静療法)を行いパンクした穴が自然に塞がるのを待つか、手術でブラ・ブレブを切除するしか、今のところ方法はありません。

Q2:遺伝性はあるのですか?
A:原発性気胸の原因であるブラ・ブレブは体質的に肺の表面の膜が剥がれやすい人にできます。 剥がれた膜が風船状に膨らんだものがブラ・ブレブになると考えられています。 今のところ原発性気胸に関しては遺伝子の異常は見つかっていませんが、親子・兄弟で体質が似通っていて気胸になりやすいと言われています。

Q3:再発はいつ起こるのですか?
A:原発性自然気胸の原因であるブラ・ブレブの破裂は偶発的なもので、いつ起こるか分かりません。 初発の気胸が治って数日経って再発した人から、5年以上経って再発した人もいます。 肺に急激な圧力が掛かる怒責時に起こりやすいと考えられますが、何ら誘因なく寝ころんでテレビを見ていて起こった人もいます。

Q4:再発を予防する方法はあるのですか?
A:原発性自然気胸を初めて起こした人が2度目を起こす確立は約50%と言われています。 従って半数の人は二度と再発しないということになります。 先に述べました通り、ブラ・ブレブの破裂は偶発的なもので、これがある限りは再発の可能性があり、再発を予防する薬も手段も今のところありません。 原発性自然気胸は痩せ型の人に多いことが知られていますが、体重を増やして太っても予防にはなりません。

Q5:普段激しい運動(体育、クラブ活動など)はしてはいけないのですか?
A:先ほど申しましたように、何も誘因なく寝ころんでテレビを見ていて起こった人もいます。 24時間365日気胸の再発に怯えて安静に生活することは不可能ですし、無駄なことです。 以前と変わらぬ生活をし、スポーツや管楽器の演奏なども以前と変わらずやればよいと思います。 それで再発したときは保存的に治療するか、思い切って手術を受けることをお勧めします。 手術で100%再発を防げるとは言えませんが、再発率をかなり減少できることは確かです。

Q6:手術はどうしてもしなくてはいけないのですか?
A:原発性自然気胸は癌の様な悪性の病気ではありません。 従って、手術しなかったからといって生命が脅かされることは、特殊な状況を除いてまず無いと言って良いでしょう。 再発を繰り返すたびに再発率が高くなることが知られていますが、どうしても手術をしたくなければ、その都度何度でも保存的治療を行っても差し支えはありません。

Q7:飛行機で海外に行きスキューバダイビングをする予定があるのですが、大丈夫でしょうか?
A:空気は気圧の低下で膨張する性質があります。 登山をする方は経験があると思いますが、ポテトチップスを山に持っていくと1500m級の山ではリュックサックの中で袋が風船のようにパンパンに膨らんでいます。飛行機が上昇するとき鼓膜が圧迫されて耳が痛くなるのを経験したことがあるかと思いますが、この時気圧が急速に低下しているのです。 原発性気胸の原因となるブラ・ブレブは気圧の低下で膨張しパンクする可能性があります。 従って、飛行機に乗ること自体が気胸発症の誘因となります。 更に、緊張性気胸といって胸腔内に漏れた空気が膨張して肺や心臓・大静脈を圧迫する状態に発展し、呼吸困難や心停止を来して生命の危険を招くことがあります。 短時間のフライトであれば何とかなるかも知れませんが、長時間のフライトとなると、飛行機に医療器具が備わっていて、医師が同乗していれば応急処置ができて助かるかもしれませんが、期待はできません。またスキューバダイビングも同様で、5m以上の海底で気胸を発症すると海面に上がってくるにつれて水圧(気圧)が低下するため、緊張性気胸の状態になって呼吸ができなくなり心肺停止する恐れがあります。 以上のことから、飛行機で長時間フライトをする予定がある方やスキューバダイビングをする方には、初発であっても手術することをお勧めします

Q8:手術を受けることにしましたが、反対側も予防的に手術をしておいた方がよいのですか?
A:原発性自然気胸の原因になるブラ・ブレブは両側に発生しているのが普通です。 病院でCTを撮って反対側に無くても、手術をしてみたらCTに写らない小さな病変があるものです。 しかし、ブラ・ブレブがあるからと言って必ず気胸を発症するわけではありません。 中にはブラ・ブレブを持っていても一生気胸を発症しない人もいます。 例えば右が気胸になって、CT上左にブラがあっても一生左に気胸を起こさない人もいます。 それまで両側に気胸を発症したことがある人は、今回右側の気胸であっても予防的に左の手術を受けておくことも良いかと思われます。 それは、反対側に気胸の既往がある人は同側に気胸を再発する確率が高いことが知られているからです。 主治医の先生とよく話し合って決めて下さい。

Q9:手術後どれくらい経ったら運動を始めても良いのですか?
A:術後の運動開始時期については決まったものはありません。 医師によっては術後2ヶ月間運動を制限する先生もいます。術後2週間程度たてば運動を再開して良いと考えています。 しかし、これも確固たるエビデンスに基づいたものではありません。 手術をされた主治医の考えに従って下さい。