1.診療科について

診療内容

呼吸器外科

当科の呼吸器外科手術症例数は年間120例前後で呼吸器外科専門医合同委員会の専門研修連携施設として,多くの呼吸器外科手術を行っています。約半数が肺がんの根治手術で、その他に気胸、縦隔腫瘍、良性肺疾患、多汗症などがあります。そのほとんどに侵襲の少ない胸腔手術を導入しています。

医師のご紹介

外来診察表

2.主な疾患と治療法

胸腔鏡下肺葉・区域切除

 1995年(平成7年)6月30日に岡山赤十字病院で肺アスペルギローマに対し第1例目の胸腔鏡補助下左下葉切除を施行して以来,2014年(平成26年)3月に1000例目の胸腔鏡下肺葉・区域切除(解剖学的肺切除)を達成、2020年(令和2年)2月に1500例を達成することができました。当初は胸腔鏡補助下(assist VATS)で施行していましたが,2009年から完全胸腔鏡下(complete VATS)に移行し,以降は主に完全胸腔鏡下での手術を施行しております。

肺がん

肺がんについて

肺がんの診断について

 胸部レントゲンや胸部CTにて肺がんが疑われた場合は、気管支鏡検査やCTガイド下検査により、生検(腫瘍の一部を診断のために採取すること)をおこない、病理学的確定診断(顕微鏡検査による診断)をおこないます。また、肺がんのひろがりをみるためにPET/CT検査(他院で受けていただきます)や脳MRI検査を受けていただき、肺がんの病期診断(ステージング)をおこないます。病期診断に基づき、治療方法を決定します。診断については、当院では主に呼吸器内科でおこないます。
 胸部CTの結果、肺がんが強く疑われる場合は、病理学的確定診断(顕微鏡検査による診断)がついていなくても手術をおこなうことがあります。当院でも肺がん手術を受けていただく方の3割から4割は術前の病理学的確定診断がない段階での手術となっています。

肺がんの治療方針について

 肺がんの治療方針については、個々の患者さんの状態(元気さ、合併症の有無、年齢など)を考慮しつつ、原則的に肺がん診療ガイドラインに基づいて治療方針を決定しています。肺がんの治療方法としては、主に手術、薬物治療、放射線治療がありますが、手術については病期診断の結果、主にステージⅠ期やⅡ期と診断されたに受けていただくこととなります。

肺がんについて

 肺がんは高齢者に多い疾患であり、当院でも肺がん手術患者の2割弱は80歳以上の高齢者の方です。体にやさしい(低侵襲な)胸腔鏡手術をおこない、個々の患者にあった術式を取り入れることで80歳以上の方でも80歳未満の方と同様、大きな合併症なく、同程度の入院期間での手術が可能となっています。年齢が高いからという理由だけで手術を受けることをあきらめることはしないでください。

当院での胸腔鏡手術

 肺がんに対しては原則として胸腔鏡手術をおこなっており、この3年間でも9割以上の方で胸腔鏡手術に肺切除をおこなっております。肺がんの進行度や発生部位によっては胸腔鏡手術よりも開胸手術(皮膚切開が10~15cm以上となるような手術)で行った方がよい場合もあります。

呼吸器外科外来から入院まで

 手術目的で呼吸器外科を受診していただいた場合、手術内容や手術後の経過について簡単にご説明します。その結果、手術を希望されたら、手術までのスケジュールを相談し、手術内容や患者様の状態に応じて外来にて呼吸器リハビリや口腔内ケアを開始します。喫煙している方は、必ず禁煙しましょう。
 原則的に手術前日に入院していただき、手術となります。経過が順調なら、肺区域切除や肺葉切除の方でも早ければ術後3日間(入院期間5日間)で退院となり、約8割の方が術後5日(入院期間1週間)の退院となります。

原発性自然気胸

自然気胸とは

 『気胸』とは、何らかの原因で肺に穴があき、空気が漏れて、胸の中(肺の周囲)に空気が貯留した状態を言います。あたかもゴム風船に穴があき、しぼんでしまった様な状態といえます。
 『気胸』には様々な原因があります。例えば、交通事故で肋骨を骨折し、この骨片が肺に刺さったり、刃物で胸を刺されて起こる気胸を『外傷性気胸』と言います。一方、何ら外的な誘引なく起こる気胸を『自然気胸』と言います。
 自然気胸にも、肺気腫や間質性肺炎といった主に長年の喫煙などによって生じる器質的肺疾患が原因で起こる『続発性自然気胸』と、体質的に肺の表面を覆っている膜が浮き上がって泡状〜風船状の病変(ブラ、ブレブと呼びます)を持った人に起きる『原発性自然気胸』があります。
 原発性自然気胸は若い痩せ型の男性に多く(男:女=9:1)、続発性自然気胸は喫煙歴のある高齢者に多く発生します。

自然気胸

原発性自然気胸の原因

 原発性自然気胸の原因はまだ解明されていません。つまり、原因となるブラ、ブレブは誰もが持っているものではなく、高身長で痩せ型の男性にできることが多いです。成長期の身長と体重の不均衡によってできるという説もあり、10歳代前半からでき始めて25歳頃までできると考えられています。
 この病変は肺尖部(肺のてっぺんの部分)に好発しますが、その他の部分にできることもあります。このブラ、ブレブが偶発的に破裂して、空気が胸の中(肺の周囲)にもれることにより気胸となります。

自然気胸の治療法は?

 気胸は、肺の虚脱の程度によって、
Ⅰ度(軽度20%未満)
Ⅱ度(中等度20〜50%)
Ⅲ度(重度50%以上)  と3段階の重症度があります。

 Ⅰ度(軽度)原発性自然気胸では、ほとんどの場合は処置をすることなく、外来通院で経過を診ます。
 Ⅱ度(中等度)原発性自然気胸では、外来治療として胸に針を刺しての空気抜き(穿刺脱気療法)を行うか、チューブを胸に留置(胸腔ドレナージ)を行い、入院して治療することが多いです。どうしても入院治療ができない事情がある時は携帯型脱気器具(ソラシックベント)を装着して、外来通院とすることもできます。
 Ⅲ度(重度)の原発性自然気胸では、合併症(特発性血気胸、再膨張性肺水腫)
が生じる可能性があるので、原則として胸腔ドレナージを行い、入院していただきます。
 いずれの場合も、外来で経過観察中に、気胸が進行(肺の虚脱が進行)するようなら、保存的治療から穿刺脱気療法に変更したり、入院しての胸腔ドレナージが必要になることがあります。
 入院して胸腔ドレナージをした場合、肺からの空気漏れが止まったことが確認できれば、チューブを抜いて退院となります。早ければ3日程度の入院で済みますが、空気漏れが止まらない時は入院期間が1週間以上となり、手術治療(次項を参照)を選択することもあります。

自然気胸の手術適応は?

  続発性自然気胸は、原則的には肺全体に病変があるため手術をせずに癒着療法(チューブを通じて胸の中に薬剤を注入し、空気漏れが止まりやすくする治療)など保存的治療が行われます。但し、肺からの空気漏れが長期にわたり、保存的治療で治癒が見込めない時は、手術の適応となります。
 原発性自然気胸は、保存的治療(手術以外の治療)で治癒しても、初発で約40%、2度目で約60%の再発率があり、再発し易い疾患ですあり、手術を行うことも少なくありません。原発性自然気胸の手術の適応は以下の通りです。

a.手術を絶対しなければならない場合(絶対適応)

  • (1)多量の胸腔内出血を伴う場合(特発性自然血気胸)
  • (2)両側同時性気胸
  • (3)脱気療法しても多量の空気漏れで肺の拡張が得られない場合
  • (4)脱気療法中に膿胸を併発した場合

b.手術を考慮した方がよい場合(相対適応)

  • (1)再発を繰り返す場合(2〜3度目が目安)
  • (2)空気漏れが長引く場合(4日以上が目安)
  • (3)CT画像で特発性自然血気胸の原因となる索状物(血管陰影)がある場合
  • (4)飛行機のパイロット、ダイバーなど、気胸が致命的となりえる職業
  • (5)その他の社会的状況(受験を控えている学生、海外留学や海外旅行を控えている人、妊娠・出産を控えた女性など)

 自然気胸の手術は原則的に胸腔鏡手術が行われ、以前の開胸手術と比べて手術の傷も小さく、痛みも少ないことから、初発であっても患者さんの希望があれば手術を行なっています。手術後の再発率は10%程度です。

手術方法

 自然気胸の手術は全身麻酔で行います。手術は側胸部に3カ所の皮膚切開を置き、ポートと呼ばれる筒状の器具を肋骨と肋骨の間に留置し、これから胸腔鏡(カメラ)を胸腔内に入れて中の様子をテレビモニターで見ながら、残り2カ所のポートから手術器具を入れて手術します。
 気胸の原因となるブラ、ブレブの集簇部位は切除し、単発性のものは結紮することもあります。これだけでは術後に新たな病変ができ(ブラ新生と言います)、特に20歳未満では再発率が高いため、ブラの好発部位(肺尖部)に吸収性の合成繊維でできたシートを貼り付けて補強します。

手術方法

麻酔、手術時間など

 胸腔鏡の手術は、手術する側の肺を完全に虚脱した状態にしないとできません。また、胸部の手術は生命に直結した肺・心臓が関係した手術でもあり、術中の異常を早期に発見するために各種のモニター類を装着する必要があります。そのため麻酔の準備に時間がかかるため、手術室に入ってから手術が始まるまでに約1時間かかります。 手術は普通1時間半から2時間を要します。しかし、癒着があると剥離に時間を要し、手術時間がそれ以上に長くなることがあります。

癒着がある場合の対処

 肺が胸壁に癒着していると十分な視野が得られず、胸腔鏡下の手術は不可能です。癒着が軽度の場合は胸腔鏡下に剥離してから行うことも可能ですが、高度の場合はそれもできないことがあります。その場合、約10cm皮膚切開を大きくして、開胸手術で行うことがあります。

術後の経過

 術後は、側胸部の手術創の1カ所から胸腔ドレーンというチューブが胸に入っています。このチューブは胸腔内を生理的な陰圧に保つために低圧持続吸引器(吸引ポンプ)に接続されています。肺の剥離面や切除断端から空気漏れがある間は抜くことができません。ほとんどの患者さんは術後1〜3日で抜去可能となります。しかし、癒着剥離が広範囲な方、肺気腫など肺に気質的な病変のある方は空気漏れが遷延し、胸腔ドレーンの留置が長期間になることがあります。
 手術終了後は、回復室で約1時間の麻酔を覚まして病室に帰ります。午前中の手術の場合は夕食から、午後からの場合は翌日の朝から食事ができます。通常、胸腔ドレーンが抜けたら翌日が退院です。約1週間後に外来を受診して頂きます。
 術後の創部痛に対しては鎮痛剤の点滴や内服で対応します。また、術後は38度程度までの発熱がありますが、手術に対するからだの生理的な反応であり、ほとんどの場合は心配ありません。

手術の主な合併症

a.出血

 手術による出血は少量で,輸血の必要はまずありません。万が一、コントロール不能な出血が起こった場合は、操作孔を増やすか、小開胸(上記)で対処することになります。

b.肺からの空気漏れ

 癒着剥離や肺を部分切除した場合、空気漏れがないことを確認してから手術を終了しますが、剥離面や切除断端から再び空気が漏れて、胸腔ドレーン抜去後に肺が縮むことがあります。肺気腫や間質性肺炎などの病変を持った方は特に起こりやすいです。このような場合は胸腔内に再び胸腔ドレーンを挿入して持続脱気療法を行います。しかし、長期に空気漏れが続く場合は胸腔ドレーンから癒着剤を胸腔内に散布して治療することがあります。

c.創部や胸腔内の感染

 創部に細菌による感染が生じたり、胸腔内に感染が生じることがあり、その際は抗菌剤による治療が必要になります。入院期間が延長したり、創部の処置のためにしばらく通院する必要が生じることがあります。

d.軽度の前胸部の皮膚のしびれ感

 胸腔鏡手術は肋骨と肋骨の狭い隙間にカメラを入れて操作するため,その部分の肋間神経が圧迫されて一時的に皮膚にしびれた感じが残ることがあります。肋間神経が切断されているわけではなく、一過性で、大部分の方は1〜2カ月で消失するはずです。

 そのほかに稀な合併症(呼吸器系、心血管系、胃腸系、神経系)が生じることもあります。

 手術自体の侵襲は小さく、命に関るようなことが起こることは極めて稀ですが、稀な合併症を生じた場合は命に関る可能性はあります。

原発性自然気胸に関するよくある質問 Q & A

Q1:原発性自然気胸の治療薬はあるのですか?
A:原発性自然気胸の原因はブラ・ブレブの破裂が原因であることが知られていますが、ブラ・ブレブがなぜできるのかは、まだ分かっていません。 従って、今のところ根本的にブラ、ブレブを発生させない、あるいは縮小させる治療薬はありません。 自然気胸が起こったら、脱気療法(軽度の場合は安静療法)を行いパンクした穴が自然に塞がるのを待つか、手術でブラ・ブレブを切除するしか、今のところ方法はありません。

Q2:遺伝性はあるのですか?
A:原発性気胸の原因であるブラ・ブレブは体質的に肺の表面の膜が剥がれやすい人にできます。 剥がれた膜が風船状に膨らんだものがブラ・ブレブになると考えられています。 今のところ原発性気胸に関しては遺伝子の異常は見つかっていませんが、親子・兄弟で体質が似通っていて気胸になりやすいと言われています。

Q3:再発はいつ起こるのですか?
A:原発性自然気胸の原因であるブラ・ブレブの破裂は偶発的なもので、いつ起こるか分かりません。 初発の気胸が治って数日経って再発した人から、5年以上経って再発した人もいます。 肺に急激な圧力が掛かる怒責時に起こりやすいと考えられますが、何ら誘因なく寝ころんでテレビを見ていて起こった人もいます。

Q4:再発を予防する方法はあるのですか?
A:原発性自然気胸を初めて起こした人が2度目を起こす確立は約50%と言われています。 従って半数の人は二度と再発しないということになります。 先に述べました通り、ブラ・ブレブの破裂は偶発的なもので、これがある限りは再発の可能性があり、再発を予防する薬も手段も今のところありません。 原発性自然気胸は痩せ型の人に多いことが知られていますが、体重を増やして太っても予防にはなりません。

Q5:普段激しい運動(体育、クラブ活動など)はしてはいけないのですか?
A:先ほど申しましたように、何も誘因なく寝ころんでテレビを見ていて起こった人もいます。 24時間365日気胸の再発に怯えて安静に生活することは不可能ですし、無駄なことです。 以前と変わらぬ生活をし、スポーツや管楽器の演奏なども以前と変わらずやればよいと思います。 それで再発したときは保存的に治療するか、思い切って手術を受けることをお勧めします。 手術で100%再発を防げるとは言えませんが、再発率をかなり減少できることは確かです。

Q6:手術はどうしてもしなくてはいけないのですか?
A:原発性自然気胸は癌の様な悪性の病気ではありません。 従って、手術しなかったからといって生命が脅かされることは、特殊な状況を除いてまず無いと言って良いでしょう。 再発を繰り返すたびに再発率が高くなることが知られていますが、どうしても手術をしたくなければ、その都度何度でも保存的治療を行っても差し支えはありません。

Q7:手術を受けることにしましたが、反対側も予防的に手術をしておいた方がよいのですか?
A:原発性自然気胸の原因になるブラ・ブレブは両側に発生しているのが普通です。 病院でCTを撮って反対側に無くても、手術をしてみたらCTに写らない小さな病変があるものです。 しかし、ブラ・ブレブがあるからと言って必ず気胸を発症するわけではありません。 中にはブラ・ブレブを持っていても一生気胸を発症しない人もいます。 例えば右が気胸になって、CT上左にブラがあっても一生左に気胸を起こさない人もいます。 それまで両側に気胸を発症したことがある人は、今回右側の気胸であっても予防的に左の手術を受けておくことも良いかと思われます。 それは、反対側に気胸の既往がある人は同側に気胸を再発する確率が高いことが知られているからです。 主治医の先生とよく話し合って決めて下さい。

Q8:手術後どれくらい経ったら運動を始めても良いのですか?
A:術後の運動開始時期については決まったものはありません。 医師によっては術後2ヶ月間運動を制限する先生もいます。術後2週間程度たてば運動を再開して良いと考えています。 しかし、これも確固たるエビデンスに基づいたものではありません。 手術をされた主治医の考えに従って下さい。

3.実績

手術件数